- 著者
-
高野 尚子
渥美 公秀
- 出版者
- 国際ボランティア学会
- 雑誌
- ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, pp.97-119, 2008-02-29
本研究は、阪神・淡路大震災記念「人と防災未来センター」をフィールドに、公的な施設での語り部による阪神・淡路大震災の伝承について考察したものである。まず語り部の語りの内容を分類した所、A.自分や自分の周囲の人の被災体験話、B.自分の救援体験話、C.地震のメカニズム、地震予知、地形についての話の3種類に大別できた。また、聞き手に来館前後の「震災と聞いて思いつく言葉」のアンケート調査を行った所、来館前は「家」、「死者」、「大地震」などの、震災の破壊的な側面を表す語句が頻出語句として挙がったが、来館後には「人」、「ボランティア」など命ある人が多く挙げられた。さらに一番多い語りであるAタイプに焦点を当て、A1.防災に関する異体的な知恵を主張する話、A2.命の大切さ、助け合いの大切さを主張する話という二種類に細分類し、各々の語りに対する聞き手の感想を検討した。A1に対しては異体的な防災の知恵をなぞって覚えようとする様子が見られ、A2に対しては語り部の話を受け止める際にとまどいや懐疑が見られた。最後に、ワーチ(2002)の「習得」と「専有」という概念を援用し、現場を理論的に検討すると共に実践的な提言を試みた。