- 著者
-
坪井 直子
- 出版者
- 佛教大学
- 雑誌
- 佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
- 巻号頁・発行日
- vol.40, pp.169-179, 2012-03-01
中国では古来より親孝行の実践例を説くために、しばしば孝子説話を集成した教訓書が編纂されている。それらは、およそ唐代以前の孝子伝、宋代以降の二十四孝に大別することが出来、広く流布して周辺の諸国にももたらされた。日本でも室町時代以降、二十四孝は盛んに享受されたが、その普及の中心的役割を担ったのが、御伽草子『二十四孝』である。これは元の郭居敬が撰した全相二十四孝詩選に基づくとされているが、必ずしもそうではなく、張孝張礼条の説話本文については千字文注にも拠っている。本稿では、御伽草子『二十四孝』張孝張礼条の説話本文が千字文注に拠っていることを確認するとともに、その理由を考察し二十四孝詩選の説話本文が千字文注に近似するためと考えた。また、二十四孝詩選の張孝張礼説話は、趙孝趙礼説話の変化したものと考えられているが、二十四孝系統間においては、二十四孝詩選が、孝行録系二十四孝の趙孝趙礼説話から千字文注に由来する張礼説話へ、説話を替えた可能性があることを指摘した。