- 著者
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岩崎 宗治
- 出版者
- 河原学園 人間環境大学
- 雑誌
- 人間と環境 (ISSN:21858365)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, pp.61-71, 2011
シェイクスピアの劇『マクベス』は王位簒奪の劇であり、舞台で起こることは暴力による殺戮と魔女たちの黒魔術である。この劇は、まず王位簒奪者の破滅をテーマとする悲劇であるが、同時代の政治的コンテクストから見れば、これは、新しくイングランドの王位についたジェイムズ一世の即位を祝う劇であり、これに先立って1604年3月に催された即位入城行列のパジャントに連なる政治的モチーフの劇であった。劇は、パジャントと同様に、ジェイムズの王権思想を支持し、イングランドとスコットランドの同君連合を言祝ぎ、正義と平和にみちた善政を新しい統治者に要請するものであった。だが、劇には隠されたメッセージとして、迫害のない穏和な宗教政策、プロテスタントとカトリックの平和的共存へのシェイクスピアの希求がこめられていた。