著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-42, 2010-03-31

トマス・ワイアットは、ヘンリー八世に仕える詩人として、ペトラルカ恋愛詩の翻訳から出発した。彼は、権力構造の生む残酷な不条理を目撃し、宮廷の女たちの虚飾、不実を体験的に知り、そうした現実認識を、運命の冷酷さ、ペトラルカ的聖女とは対極の不実な女性像として、彼の恋愛詩に表現した。彼はまた、外交使節として説得、欺瞞、韜晦の語法を身につけ、宮廷社交界における求愛の言語を学び、その繊細な言語感覚により、イタリア・ソネットの形式と英語の自然な音調を融合させ、英語ソネットの原型を確立した。ワイアットの内省的な詩には、人間性の洗練と理性的な両性関係を指向するプロテスタント・ヒューマニズムの倫理性が見られる。
著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.45-53, 2007-03-31

イギリス・ルネサンスの1590年代、<ソネット連作>流行のなかで書かれたシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』には、ペトラルカ恋愛詩の愛の観念がアイロニカルに扱われている。だが、ここにはまた、家父長制の維持装置としての結婚観も、発生期の「個人主義的情緒愛」と結びついた結婚愛の理念も、共存している。さらに、そうしたエリート文化に対して、カーニヴァル的肉体としての乳母に象徴される民衆的な性愛の観念がある。そうした文化のダイアロジズムのなかで、恋人たちの悲劇的な死は、生と死と再生の循環のなかに回収される。
著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.73-84, 2011-11-15

シェイクスピアの『ソネット集』(一六〇九)は、一五四篇のソネット連作と三二九行の物語詩「恋人の嘆き」を併せて一巻として出版された。これはサミュエル・ダニエルの『ディーリア』の構成に倣って書かれた作品であって、全巻を一つのまとまりとして読むと、この詩集は愛の動因をキューピッドに帰するペトラルカ恋愛詩の伝統を棄てて、現実の人間の性的欲望を愛の動因とする恋愛詩集であると読める。このように愛の核心を欲望と認知することは、近代個人主義の一面と見ることができる。
著者
岩崎 宗治
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.73-84, 2011-11-15 (Released:2018-04-23)

シェイクスピアの『ソネット集』(一六〇九)は、一五四篇のソネット連作と三二九行の物語詩「恋人の嘆き」を併せて一巻として出版された。これはサミュエル・ダニエルの『ディーリア』の構成に倣って書かれた作品であって、全巻を一つのまとまりとして読むと、この詩集は愛の動因をキューピッドに帰するペトラルカ恋愛詩の伝統を棄てて、現実の人間の性的欲望を愛の動因とする恋愛詩集であると読める。このように愛の核心を欲望と認知することは、近代個人主義の一面と見ることができる。
著者
岩崎 宗治
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.61-71, 2011

シェイクスピアの劇『マクベス』は王位簒奪の劇であり、舞台で起こることは暴力による殺戮と魔女たちの黒魔術である。この劇は、まず王位簒奪者の破滅をテーマとする悲劇であるが、同時代の政治的コンテクストから見れば、これは、新しくイングランドの王位についたジェイムズ一世の即位を祝う劇であり、これに先立って1604年3月に催された即位入城行列のパジャントに連なる政治的モチーフの劇であった。劇は、パジャントと同様に、ジェイムズの王権思想を支持し、イングランドとスコットランドの同君連合を言祝ぎ、正義と平和にみちた善政を新しい統治者に要請するものであった。だが、劇には隠されたメッセージとして、迫害のない穏和な宗教政策、プロテスタントとカトリックの平和的共存へのシェイクスピアの希求がこめられていた。
著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.63-74, 2005-03-31

ヘンリー・コンスタブルの『ダイアナ』は、1590年代のイングランドで流行した<ソネット連作>形式の詩集であるが、詩人の愛する女性がだれなのかはよくわからない。この詩集の特質をなすものは、当時の支配的な感情の様式であるペトラルキズムと、そこに混入したイングランド土着の要素、そして、コンスタブル特有の<奇想(コンシート)>である。コンスータブルの生涯と作品について、わかっていないことが多いのは、詩人のカトリックの信仰がかかわっている。
著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.47-60, 2006-03-31

恋愛ソネット集『アストロフェルとステラ』におけるフィリップ・シドニーの霊感の源は<自然の女神>である。ここに歌われている愛はペトラルカ風の精神的な愛ではなくて、中世文学の<自然の女神>に結びついたエロテイクな欲望である。この時代の文化のなかで、変という私的な領域は、政治という公的領域と交叉していて、ソネット連作における求愛のレトリックは、政治における雄弁のレトリックと通底している。シドニーは、ステラへの求愛の背後に、エリザベスに対する婉曲な政治的メッセージを隠しているのかもしれない。