著者
尾崎 宏和 原 優太 得丸 貴司 宗像 仁美 斎藤 侃 渡邉 泉
出版者
日本環境学会
雑誌
人間と環境 (ISSN:0286438X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.2-12, 2018 (Released:2019-04-24)
参考文献数
63
被引用文献数
1

土壌・地下水汚染と食品の安全の問題が注目を浴びる豊洲の新食品市場施設の地下空間で,2016年9月17日と9月20日に滞留水を採取し,水素イオン濃度指数(pH)と有害金属濃度を測定した。その結果,滞留水のpHは11.5と強アルカリ性を示し,元素濃度はとくに溶存態モリブデンが17日に190 µg/L,20日に170 µg/Lと水質汚濁に係る要監視項目の指針値70 µg/Lを超過した。非汚染の地下水と比べると,滞留水試料はモリブデンが数百~千倍であり,バナジウム,ガリウム,スズは数百倍,ニッケル,アンチモンは数十倍に達した。これらの元素は,石炭乾留残渣や石炭灰において非汚染土壌に対する濃度比が大きく,汚染土壌からの溶出率も高いという特徴をもつ。したがって本研究は,豊洲地下空間の滞留水における汚染が,これまで報道されたヒ素,水銀,六価クロム,ベンゼン,シアンだけでない,多岐の元素に及ぶことを明らかとした。そして,豊洲における汚染問題は石炭からの都市ガス製造等に伴う土壌と地下水の汚染を要因とすることが,これまで着目されなかった複数の元素のレベルを解析することにより裏付けられた。溶存態モリブデンの指針値超過は,現地の土壌・地下水汚染とそれに伴う健康影響を引き続き検討する必要性を示している。豊洲市場予定地における環境汚染の実態は,より多くの有害物質を対象に,より多くの試料によって精密な調査を再度実施することが求められる。そして,予防原則と汚染者負担の原則に基づいて,長期的な検討と徹底した対策の構築が欠かせないと考えられる。
著者
吉田 喜久子
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.143-162, 2011

日本は、規模、頻度、種類のいずれにおいても、世界でも突出した自然災害大国であるが、本年三月の東日本大震災が、人類が経験した過去の自然災害と異なるのは、自然災害に加えて、原子力発電所の損壊と放射能汚染も起こったというところにある。この震災を機に私達が考えなくてはならないのは、単に原発維持か原発廃止かというレヴェルの問題だけではない。より根本的な問題があり、それは、科学技術というものをどのように考えるかという問題であって、この問題は、人は自然といかに関わるかという問題と切り離せない。現代の科学技術文明の根底にある西洋的自然観は、少なくとも西洋文明導入以前の日本人の自然観とは非常に異質なものであったし、西洋的自然観は、現代においてもなお、日本人にとって必ずしも自明な自然観ではない。このことの中に、今回の問題を根本的に考える際の、一つの手掛かりがあるのではないだろうか。
著者
木原 浩貴 羽原 康成 金 悠希 松原 斎樹
出版者
日本環境学会
雑誌
人間と環境 (ISSN:0286438X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.2-17, 2020-02-10 (Released:2020-08-01)
参考文献数
44

気候変動問題に関する科学的解明が進みその情報が伝わっても,社会変革の重要性の認識は高まらない。この状態は「心理的気候パラドックス」と呼ばれており,これを生み出す心理的障壁に応じて気候コミュニケーションの在り方を再考することが求められている。障壁は国や文化によって異なることから,それぞれの実情を把握することが必要である。本研究では,日本における気候変動問題や対策の捉え方に関するインターネット調査を行い,構造方程式モデリング及び非階層クラスタ分析の結果から,日本の現状を整理した。特に,障壁のひとつとされる認知的不協和に着目して考察を行った。結果,下記の点が明らかとなった。第1に,居住地域や性別に関係なく,多くの人が気候変動対策を「室内の暑さ寒さなどの我慢を伴うもの」と捉えている。第2に,脱炭素社会への態度は倫理観に基づく責任感や,対策の経済への影響の受け止め方に規定される。暮らしの快適さや便利さの向上と脱炭素社会は連想されていない。第3に,障壁のうち「拒否」を抱える群が一定数存在する。この群は30代・男性が有意に多い。第4に,危機感はあるが対策の影響をネガティブに捉える群が最大の割合を占めており,40代が有意に多い。ポジティブに捉える群よりも脱炭素社会の支持度は有意に低く,フレーミングや認知的不協和が心理的気候パラドックスにつながっていることが確認できる。障壁を抱えたまま危機感を高めるコミュニケーションを行っても,脱炭素社会づくりの社会的重要性の認識は高まらず,逆に拒否が強まる可能性もある。心理的気候パラドックスの理論と日本の実情を踏まえて気候コミュニケーションを行う必要があると考えられる。
著者
森 順子
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.11-19, 2012-07-31 (Released:2018-04-23)

人間は他者との関係を持って生きている。真の人間関係とは何か。『リア王』の主人公が藤の末、手にするのは、コーディーリアとの揺るぎない関係である。シェイクスピアは副筋を編み出し、この理想的な人間関係を際立たせる人物を描いている。それがグロスターの私生児エドマンドである。私生児に対する差別と偏見をもつ社会の中で、父親から人前で息子と認めるのを恥ずかしがられる存在である。彼は感情を封印し、他者を騙す道を選ぶ。エドマンドが死の直前に変われたのは何故か。人間関係の兆しと愛を感じ取ることができたからである。真の人間関係には人を変える力がある。その基盤は相互の愛と尊敬である。人間関係の視点からエドマンドの内的世界を探る。
著者
吉野 敏行
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.57-73, 2016 (Released:2018-04-23)

A(I 人工知能)の急速な発展が今後の経済社会にどのような影響を及ぼすか、特に資本主義社 会への影響とポスト資本主義社会への展望について考察した。資本主義社会は本来的に資産家 と労働者との所得格差を拡大する仕組み(ピケティのr > g)をもっているが、先進諸国では、す でに利子率と経済成長率がゼロ水準となり、利潤率も2%以下に低下しつつある。さらにAI が 人間の知能を凌駕する「シンギュラリティ」までに、労働力人口の5 割から最大9 割がAI と労 働代替すると予測され、資本主義社会はすでに末期状態にある。ポスト資本主義社会は「20 世 紀の社会主義社会」とは異なる「理想の社会主義社会」である。基本的人権が保障され、ベーシッ クインカムが所得原則となり、AI による最適な計画経済が実現される経済成長率ゼロの「定常 世界」である。AI は資本主義の終焉と真正社会主義社会を実現する物質的・技術的基盤である。
著者
馬 建
出版者
日本環境学会
雑誌
人間と環境 (ISSN:0286438X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.4-19, 2023-02-10 (Released:2023-08-10)
参考文献数
42
著者
吉田 喜久子
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.65-80, 2014-11-30 (Released:2018-04-23)

創唱者宗教ではない神道には、もともと経典や教義のようなものは存在しない。このことは、倫理的規範の基本的拠り所も、創唱者の言行や教えを記した経典や聖書とか、あるいはそれらに基づいて形成された教義という形では、神道には存在しないことを意味する。教理や教義のような言葉による説明手段をもたない神道の宗教性の特性は、普遍主義的宗教ないし創唱者宗教の立場からは解りにくいとされて来たが、神道における倫理についても、同様である。神道が、教理や教義という形を取らず、祭祀というあり方を取ることで充分とされた来たのは、神道の宗教性が、場的性格を有することから来ている。敬虔という境位において、経験の場を開く、この自覚的営みが、まつり(祭祀)である。倫理という問題を考える手掛かりも、このことの中にある。
著者
森 順子
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.31-43, 2011-11-15 (Released:2018-04-23)

シェイクスピアは『ジョン王』、『リチャード三世』、『コリオレーナス』において未熟な母親を描いている。未熟さはわが子との関係において生じる。いずれも未熟さに対し無自覚に生きた母親たちである。自分のこころを省みることのない母親は、こどものこころを慮ることもできない。しかし、この未熟な母親をこどもは受けとめる。そのこどもの姿をとおして見えてくるものがある。シェイクスピアの視線である。未熟な母親を切り捨てず、一人の人間として見つめる視線である。愚かな生き方をしてしまった人間に対する憐憫のこもった視線である。母子関係の観点から未熟な母親像を考察する。
著者
吉野敏行
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.57-73, 2016-12-31

A(I 人工知能)の急速な発展が今後の経済社会にどのような影響を及ぼすか、特に資本主義社会への影響とポスト資本主義社会への展望について考察した。資本主義社会は本来的に資産家と労働者との所得格差を拡大する仕組み(ピケティのr > g)をもっているが、先進諸国では、すでに利子率と経済成長率がゼロ水準となり、利潤率も2%以下に低下しつつある。さらにAI が人間の知能を凌駕する「シンギュラリティ」までに、労働力人口の5 割から最大9 割がAI と労働代替すると予測され、資本主義社会はすでに末期状態にある。ポスト資本主義社会は「20 世紀の社会主義社会」とは異なる「理想の社会主義社会」である。基本的人権が保障され、ベーシックインカムが所得原則となり、AI による最適な計画経済が実現される経済成長率ゼロの「定常世界」である。AI は資本主義の終焉と真正社会主義社会を実現する物質的・技術的基盤である。
著者
内藤可夫
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.41-54, 2015-12-30 (Released:2018-04-23)

20 世紀最大の発見とも言われるミラーニューロンについて、その哲学的意味の解明の努力はほとんど行われていない。だが、存在概念や自我の否定という現代哲学の文脈から考えるならば、その重大な意義は明らかである。他者は人間にとってアプリオリだと言える。また、自我は他者の写しであり、存在概念も他者概念から派生すると考えるのが自然である。今後「概念」の概念自体もこの機能を手掛かりに考えられるようになるだろう。また、鉤状束の機能から、それらの持つ意味は畏れであると予想する事ができる。
著者
坂本 真也
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.85-96, 2011-11-15

本研究では、スクールカウンセリングにおける教員研修としてPCAGIP法を用いた事例検討の実践から、その有効性や課題について検討することを目的とした。事例検討では、スクールカウンセラーはファシリテーターとして働き、他の参加者メンバーは自由で話しやすい雰囲気の中、討議を行った。本研修では、事例提供者の負担が少ないこと、さまざまな視点から事例Aへの対応を考えられたことなどの特徴が見られた。その結果、(1)スクールカウンセラーと教員間の連携強化やチームで関わる経験になったこと、(2)教員が学級経営や児童とのかかわりに関して予防的に関わっていける可能性を示唆した感想が得られた。また、今後の課題として、PCAGIP法による事例検討のプロセスを詳細に検討していく必要性が見出された。
著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.73-84, 2011-11-15

シェイクスピアの『ソネット集』(一六〇九)は、一五四篇のソネット連作と三二九行の物語詩「恋人の嘆き」を併せて一巻として出版された。これはサミュエル・ダニエルの『ディーリア』の構成に倣って書かれた作品であって、全巻を一つのまとまりとして読むと、この詩集は愛の動因をキューピッドに帰するペトラルカ恋愛詩の伝統を棄てて、現実の人間の性的欲望を愛の動因とする恋愛詩集であると読める。このように愛の核心を欲望と認知することは、近代個人主義の一面と見ることができる。
著者
森 順子
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
no.2, pp.31-43, 2011-11-15

シェイクスピアは『ジョン王』、『リチャード三世』、『コリオレーナス』において未熟な母親を描いている。未熟さはわが子との関係において生じる。いずれも未熟さに対し無自覚に生きた母親たちである。自分のこころを省みることのない母親は、こどものこころを慮ることもできない。しかし、この未熟な母親をこどもは受けとめる。そのこどもの姿をとおして見えてくるものがある。シェイクスピアの視線である。未熟な母親を切り捨てず、一人の人間として見つめる視線である。愚かな生き方をしてしまった人間に対する憐憫のこもった視線である。母子関係の観点から未熟な母親像を考察する。
著者
高橋 誠 森本 哲介
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.23-35, 2022-03-31 (Released:2022-09-28)
被引用文献数
1

キャリア教育で育むべき性格特性的強み(CS)について明らかにするために,社会人の持つCSと経済的・心理的な要素との関連を検討した。社会人231名を対象にオンライン調査を行った。年収,年齢,勤務年数に性差が見られたため,男女ごとに相関分析を行った結果,男女とも全CSのうち9割以上に職務満足度やワーク・エンゲージメントの間に有意な正の相関がみられた。年収との間に有意な正の相関がみられた CS の多くが,男性では「業務を円滑に遂行するために必要な強み」であり,女性は「対人関係を円滑化させるような日本特有の強み」であった。年収により3群に分けてCS得点の差を検討した結果,330万円未満群と695万円以上群との間に有意な差が見られ,「積極的に現状を打開するために必要な強み」が多くみられた。
著者
伊藤 義美
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-20, 2023-03-31 (Released:2023-04-15)

本稿では、からだの感じ方式によって行われた心の空間づくり(フォーカシング指向ボディ・スキャン)とフォーカシング・プロセスを報告し、空間づくりとフォーカシングにおけるからだの感じとその方式の特徴を明らかにした。そしてフォーカシングと身体指向的アプローチとの関連を検討した。フォーカサーは 40 代の男性である。からだの感じ方式の空間づくりを行い、それに続いて気になるからだの感じについてフォーカシングを行った。からだの感じ方式の空間づくりは、大地と接触する足裏の感じから始めて、からだの各部位にある感じを探るものである。いわばからだに空間をつくる方法である。からだには肯定的な感じと否定的な感じの両方があり、両方の感じをからだは全体的に抱えていることになる。さらに身体指向的アプローチの系譜を検討し、身体指向的アプローチとフォーカシングが結びつくことによって新たな発展が期待できることが示唆された。
著者
佐藤 輝 久野 真希子 矢田 誠 仲摩 栄一郎
出版者
日本環境学会
雑誌
人間と環境 (ISSN:0286438X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.18-23, 2020-02-10 (Released:2020-08-01)
参考文献数
17

持続的な森林保全にむけて重要な非木材林産物としてサトウヤシ(Arenga pinnata)砂糖をインドネシアから日本にフェアトレードで輸入するにあたり,この有効成分や安全性について測定した。様々な化学的組成分析の結果(砂糖100 gあたり),水溶性ビタミンのうち,特にナイアシン(3.27 mg)と葉酸(41 μg)が黒砂糖と比べても多く含まれていた。また,ビタミン様物質のイノシトール(239 mg)と色素・苦味成分のポリフェノール(300 mg)も比較的高いことが明らかとなった。一方,食後の血糖値の上昇度を示す指標であるglycemic index値(平均±標準偏差,n =12)は66±17となり,白砂糖のそれ70±35との有意差がなく,中GI食品と分類された。安全性については,大腸菌群,一般生菌数,カビ,芽胞数はすべて日本の食品衛生基準値以下であり,残留農薬(245化合物)とアフラトキシン類は不検出,重金属の鉛,ヒ素,総水銀,カドミウムも不検出だった。以上から,サトウヤシ砂糖はナイアシン,葉酸,イノシトールおよびポリフェノールの含有を特長とした高付加価値商品として展開できると評価した。
著者
池貝 隆宏 三島 聡子 小林 幸文
出版者
日本環境学会
雑誌
人間と環境 (ISSN:0286438X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.2-14, 2019-10-02 (Released:2020-04-01)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

神奈川県沿岸のマイクロプラスチック汚染状況を把握するため,相模湾4地点及び東京湾1地点の海岸で漂着マイクロプラスチックの調査を行い,漂着状況の空間変動と時間変動を調べた。空間変動については,満潮線の漂着状況の特徴が海岸間で大きく異なることが分かった。この差は,外洋由来ではなく,内陸の発生源由来のマイクロプラスチックの影響を強く受けたことにより生じたと推定された。満潮線に漂着したマイクロプラスチックの一部は海風により内陸側へ輸送されるが,その傾向はペレットで顕著に表れた。また,満潮線に漂着するマイクロプラスチックのサイズ分布は,沿岸を漂流するマイクロプラスチックに比べて大きいものの割合が高くなることが分かった。時間変動については,気象の影響として沖から陸に向かう風向の強風が長時間続いたときに漂着量が増加し,台風時の漂着量は平時の3倍に達することが分かった。季節変動では,相模湾沿岸では季節風の影響を受け,沖から陸に向かう風が卓越する春期に沖合の漂流マイクロプラスチックが陸域近くに輸送されてその密度が高くなるため,漂着量が増加すると推定された。一方,マイクロプラスチックの材質構成は,期間を通じて大きな変化は見られなかった。2つの海岸で漂着が確認された小粒径の発泡ポリスチレン球の由来を推定したところ,クッション材として利用される微小発泡ビーズの可能性が高いと推定された。こうした製品の適正な処理が重要であることが示唆された。
著者
中村 真悟
出版者
日本環境学会
雑誌
人間と環境 (ISSN:0286438X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.13-35, 2018 (Released:2019-04-24)
参考文献数
39
被引用文献数
1

日本のPETボトルリサイクルの今日的特徴として,①食品衛生などの基準をクリアーする必要のある食品容器(トレイ,飲料容器)へのリサイクル用途が拡大していること,②使用済みPETボトルの取引が他のリサイクル制度の材料と異なり,市場取引化していること,③自治体ならびにリサイクル事業者がリサイクルプロセスと費用負担を担っており,飲料・容器業界がリサイクルプロセスや費用負担の面で実質的に関与していないこと,が挙げられる(2章)。日本のPETボトルリサイクルシステムは,500 ml以下の小型容器へのPET利用の条件であるPETのリサイクルシステムの構築を目的として,飲料・容器業界主導のもと生産技術の導入,容器の規格化,また自治体・小売事業者との協力関係のもと回収実験が行われた。これらの取り組みは容器包装リサイクル法(1995年6月成立)を通じて,制度化されリサイクルシステムが成立した(3章)。成立したリサイクルシステムは,自治体がPETボトルを回収し,容器包装リサイクル協会が仲介役となってリサイクル事業者が引取,リサイクルするというもので,飲料・容器業界らが引取,リサイクルに伴う費用を委託費用として支払うというものであった。しかし,2000年頃になると,国内でのPETボトル取引が「委託」から「市場」へと変化した。その背景には,回収PETボトルの高品位化,国内リサイクル事業者の新規参入,PETくず輸出の急増,飲料・容器業界による輸出構造の実質的容認が挙げられる。PETボトル取引の「市場」化により,多くのリサイクル事業者が撤退・倒産する一方,生産技術の高度化により食品容器や PETボトル用途へのリサイクルを行うリサイクル事業者が登場した(4章)。以上の過程を経て,飲料・容器業界はリサイクル原料の取引ならびにリサイクルプロセスの牽引役から,PETボトルの設計・開発を通じてのリサイクル原料の質的規定者ならびにリサイクル材の購買者としての重要性が高まったのである。