著者
氣多 雅子
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.275-297, 2012-09-30

自然災害は都市や発電所などを破壊するだけでなく、我々の内に蓄積してきた自然理解そのものにも裂け目を生じさせる。その裂け目は直ちに自然災害を説明する多くの情報によって覆い隠される。この事態は、ハイデッガーが「自然は隠れることを好む」というヘラクレイトスの箴言に読み取る事柄と深く通底している。ハイデッガーは、人間が自らの力において挫折するときに始めて自然の力の優勢が露呈されることを明らかにしている。今回の震災における原発事故において我々が経験したのは、まさに人間の力の挫折である。放射能といった種類の危険は近代化に伴い産業化のメカニズムによって不可避的にもたらされる結果であり、現代社会を破局的な社会にしている。ジャン=リュック・ナンシーは、現代世界にもはや自然的な破局はあり得ず、あるのは文明的な破局のみであると言う。自然の社会化という事態がそれを示していることは明らかであるが、それにも拘らず自然災害の経験から、我々は自然を社会内部の現象とすることに対する徹底的な異議申し立てを受け取るのである。

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