著者
本野 英一
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.249-267, 2009

本稿は,中国最初の商標法となる筈だった「商標註冊試〓章程」の制定施行が無期延期になってから,第一次世界大戦終了期まで,在華外国企業と華商・華人企業の間で外国製輸入商品の商標権をめぐって何が起きていたかを,日本企業を中心に考察した論文である。華商・華人企業が日本企業保有の商標をその模造の対象とするようになったのは,1909年の鐘淵紡績の藍魚綿糸商標侵害事件がきっかけだった。この事件以来日本企業は,華商・華人企業による商標権侵害に悩まされることになった。だが,これは当時の中外間商標権侵害紛争の一面に過ぎない。日本企業は,華商・華人企業によって一方的に商標権を侵害されてばかりいたのではなかった。彼らは,西洋企業製品の模造品を製造販売する時は,華商・華人企業と提携した。両者の提携は,当初華商・華人企業が日本人製造業者を利用する形で始まっていたらしい。しかし,第一次世界大戦期になると,今度は日本人製造業者が,華商・華人企業を利用するようになっていた。それは,中国全土に広かっていた日貨排斥運動への対策として,欧米企業製品の模造品を製造販売するためであった。

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