著者
米田 眞澄
出版者
神戸女学院大学
雑誌
女性学評論 (ISSN:09136630)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.41-65, 2013-03

日本は 2004年から人身取引対策を開始しているが、「興行ピザ」を取得して入国した外国人、とりわけフィリビン女性が人身取引の被害にあっていることが問題となり、2006年6月1日より「興行ピザ」に関する基準省令が改正され、「興行ピザ」を取得するための基準が厳格化された。これによって、フィリピン女性の新規入国数は激減した。 しかし、近年では、フィリピン女性は、日本人男性との偽装結婚により入国し、入国前に聞いたものとは全く異なる劣悪な労働条件の下で、フィリビンパブなどで働かされる傾向にある。この場合、女性は、電磁的公正証書原本不実記載の罪の容疑で逮捕されるが、人身取引の被害者として認定されずに、後に検察官によって起訴されている。 彼女たちが人身取引の被害者として認定されないのは、彼女たちが、ブローカーまたはフィリピンパブの雇用主によって不法な支配下に置かれていたとまではみなされないからである。ここでいう「不法な支配下」とは、被害者に対し物理的又は心理的な影響を及ぼし、その意思を左右できる状態に被害者を置き,自己の影響下から離脱することを困難にさせることを言うというのが裁判所の判断である。また、被害者が、そのような支配下にあったか否かは、被害者の行動の自由が制約されていたか、被害者は逃げたい、あるいは逃げようとしたが逃げられない状態にあったかが大きなポイントとなる。 来日したフィリピン女性たちは、日本で働くことを望んでいるため、来日前に聞いていた労働条件よりも悪い労働条件であっても、その場から逃げずに、がまんして働くのが実情である。しかしながら、人身取引防止議定書は、被害者が搾取に合意していたか否かにかかわらず、搾取を目的に、詐欺や欺罔といった手段によって人を移送したり、受け取ったりすれば、人身取引として処罰するように締約国に義務づけている。したがって、日本の被害者認定は、議定書に沿っているとはいえない。日本は、人身取引の被害者の発見と適切な保護を行うようにしなければならない。 日本は、未熟練の外国人労働者は受け入れないというのが基本政策であるが、実際は、「研修」 「技能実習」といった合法的形態で、多くの未熟練外国人労働者を受け入れている。しかしながら、ホステスとしての受け入れは、いかなる形でも認めていない。日本は、今後、偽装結婚の取り締まりを強化していくだろうが、外国人ホステスの需要は依然として高いため、人身取引を行うブローカ一等は、必ず抜け道を見つけ、あらたな手口を発明するだろう。 人身取引防止のために国境警備を強化することは必要であるが、いったん非正規外国人労働者が日本に入国したならば、彼ら、彼女らが人身取引の被害にあわないように保護する義務が日本にはある。日本が締結している主要な国際人権条約(たとえば、自由権規約第 8 条、女性差別撤廃条約第 6 条)は、日本に人身取引の被害者を適切に保護する義務を課している。

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