- 著者
-
飯田 剛史
- 出版者
- 関西社会学会
- 雑誌
- フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
- 巻号頁・発行日
- no.5, pp.43-56, 2006-05-27
「民族のお好み焼き」といわれるように、現代の日本の都市は多民族化が進んでいる。そのなかで在日コリアンは世代を重ね、生活文化は日本人のそれとほとんど均質化してきている。これまで芸能界やスポーツ界で在日のスターがたくさんいたが、いずれも日本名を名乗りその「在日性」はあまり見えなかった。しかし在日住民の一部は、この文化的均質化のなかで逆に、民族的アイデンティティを自覚的に保ちながら生きてゆこうとしている。その仕事は、多様な分野で「魅力ある差異」をもつものとして貴重な貢献をなしている。大阪府には約14.5万名(在留外国人統計2002年版)の在日韓国・朝鮮籍住民がおり、分化の様々な面でその比重は小さくない。ここでは1980年代以降の在日の民族祭りの展開を紹介し、大阪文化に創造的に関っている状況を示したい。1983年に始められた「生野民族文化祭」は、民族伝統につながる農楽を中心にした祭りのスタイルを創造し、公共の場で民族祝祭を行う口火を切った。これは2002年に終息したが、各地の在日の若者に強い影響を与え、京阪神を中心に20に及ぶ「○○マダン」と名乗る祭りが生み出された。今日これらのマダンには多くの日本人住民も参加し、多民族共生のユニークなあり方を示している。「ワンコリアフェスティバル」は、「一つのコリア」を目指しつつ、ジャンルを問わない在日ミュージシャンやその友人たちのパフォーマンスを野外音楽堂で繰り広げるものである。「四天王寺ワッソ」は、古代朝鮮から多くの人々が高い文化をもって渡米したことを、色鮮やかな衣装のパレードと、聖徳太子による出迎えの儀式で表現する。一時中断したが、2004年には、在阪日本企業の支援と多くの日本人の参加を得て、新しい大阪の祭りとして再生した。これらの祭りは、マスコミ報道を通して広く知られるようになり、地方自治体や公共団体の協賛・後援も増えてきている。また多くの日本人住民の参加によって、単に在日だけの行事にとどまらず、ヴォランティア参加型、創造型の祭りとして、今日の大阪都市文化に多民族性と新たな活力を加えるものとなっている。