- 著者
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簡 月真
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, no.2, pp.3-20, 2002
本稿は,言語接触のただなかにある台湾をフィールドとし,4つの言語集団による言語使用意識をもとに,アタヤル語・閩南語・客家語・北京語・日本語など諸言語の機能的分布の変化について考察したものである.その結果,台湾において次のような異なった再編成のパターンが同時に観察されることがわかった.(1)[言語シフト]アタヤル族・客家人の言語生活においては,北京語が「公的な場」→「暗算・祈り」→「隣家」→「家庭」という順番で浸透しつつあり,言語シフトが進行中である.(2)[二言語併用]閩南人の場合,閩南語と北京語の二言語併用へと再編成が行われている.なお,閩南語の使用はほかの言語集団にも伝播している.特に「公的な場」において閩南語が北京語と競り合っているのが注目される.(3)[言語維持]外省人の言語生活において,閩南語の受容も見られるが,EGLの北京語が絶対的な優勢であり,言語維持が観察された.(4)[第三言語の採用]使用者の年齢層が限られているが,かつて「国語」として普及した日本語は,現在,老年層において(1)異なるグループの間の共通語,(2)暗算する際の言語,(3)隠語,という役割を果たしている.