- 著者
-
池田 昌広
- 出版者
- 京都産業大学
- 雑誌
- 京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
- 巻号頁・発行日
- no.46, pp.29-47, 2013-03
班固『漢書』は成書以来,複数のテキストが行われてきた。初唐に顔師古による校注本があらわれ,これが普及するにつれ標準本となった。小論は唐代における師古本普及のさまを推測するため,盛唐に成った司馬貞『史記索隠』と張守節『史記正義』とが師古本を利用しているか否かを調査した。その結果,索隠では利用に否定的,正義では肯定的結論を得た。索隠がおもに依拠した『漢書』テキストは師古本以前の標準本たる東晋の蔡謨集解本であったらしい。 正義では蔡謨本利用の痕迹は見つかっていない。 果たして,旧来の蔡謨本によった索隠と,あらたな師古本によった正義と,両者の『漢書』テキストの選択は対照的といえる。これの成因は索隠と正義との成立の時間差と思われる。正義は開元24年(736)の成立,索隠はそれより一世代分ほど早く成ったようだ。この間隔に師古本の普及が一定程度すすみ,正義の師古本利用を可能にしたと推量される。このことから師古本は成立後,急速に普及したのではなく漸次的に普及し,盛唐のころ蔡謨本から師古本へ 『漢書』の標準本の交替がおこったと考えられる。