著者
土井 由利子
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.3-10, 2012-02
被引用文献数
2

近年,国内外の数多くの睡眠研究によって,睡眠障害が罹病のリスクを高め生命予後を悪化させるというエビデンスが積み重ねられて来た.世界的に睡眠研究が進む中,睡眠問題は取り組むべき重要課題として認識されるようになり,日本を含む各国で,国家的健康戦略の1つとして取り上げられつつある.このような流れの中で,過去10年間を振り返って,日本における睡眠障害の頻度(有症率)と睡眠障害による健康影響について,エビデンスをもとにレビューすることは,公衆衛生上,有意義なことと考える.文献レビューの結果,睡眠障害の有症率は,慢性不眠で約20%,睡眠時無呼吸症候群で3%〜22%,周期性四肢運動障害で2〜12%,レストレスレッグス症候群で0.96〜1.80%,ナルコレプシーで0.16〜0.59%,睡眠相後退障害で0.13〜0.40%であった.健康影響に関するコホート研究では,死亡に対し短時間睡眠で1.3〜2.4,長時間睡眠で1.4〜1.6,2型糖尿病の罹病に対し入眠困難で1.6〜3.0,中途覚醒で2.2と有意なリスク比,入眠困難と抑うつとの間で1.6と有意なオッズ比を認めた.日本国内外のコホート研究に基づくメタアナリシス研究でも同様の結果であった.以上より,睡眠障害へ適切に対処することが人々の健康増進やQOLの向上に大きく寄与することが示唆された.そのためには,睡眠衛生に関する健康教育の充実をはかるとともに,それを支援する社会や職場での環境整備が重要である.また,睡眠障害の中には,通常の睡眠薬では無効な難治性の神経筋疾患なども含まれており,睡眠専門医との連携など保健医療福祉における環境整備も進める必要がある.

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