著者
土井 由利子 石原 金由 内山 真
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.104-111, 2015-04

サマータイム制度のサマータイムは,daylight saving time(DST)を日本語に訳したもので,DSTは,今から100年前の1916年に英国を中心に導入された. 1 年を夏時間(DST)と冬時間に 2 分割し,DST開始初日に時計を 1 時間進め,日没から就寝までの時間を 1 時間減少させて照明用の電力消費を1 時間分減少させ,電力消費に係る費用を削減しようという狙いがあった.現在,比較的高緯度地域の国々を中心に,この制度が実施されている.例えば,DSTは, 3 月最後の日曜日の午前 2 時が午前3 時へ切り替わって始まり,10月最後の日曜日の午前 3 時が午前 2 時に切り替わって終わる.近年,ヒトの睡眠研究の進歩と相俟って,DSTによる睡眠や健康への影響に関する研究成果が発表されるようになった.本稿では,睡眠と覚醒のしくみ(生物時計(概日リズム)と社会的時計)について説明し,DSTによる睡眠や健康への影響について,文献レビューをもとに解説を行った.要約すると,次のとおりである.1. 睡眠への影響:( 1 )概日リズムの再同調に要する時間(数日から数週間);( 2 )睡眠の断片化と睡眠効率の低下;( 3 )睡眠時間の減少(30 〜 60分程度(DST開始後(春));( 4 )睡眠時間の増加(40分程度(DST終了後(秋)). 2 .健康への影響:( 1 )急性心筋梗塞発症の増加(DST開始後(春));( 2 )急性心筋梗塞の発症は増加または不変(DST開終了後(秋)). 3 .DSTの影響を受けやすいリスクグループ:( 1 )睡眠時間が短い,または不足している人;( 2 )夜型化傾向の人;( 3 )高齢者;( 4 )循環器疾患(心疾患,糖尿病,高血圧)の既往歴のある人;( 5 )循環器疾患の薬を服用している人.サマータイム制度によるDSTは,その制度が導入されている地域全体に及ぶので,その地域の中で,DSTをリスク要因とした非曝露集団を設定することができない.正確なリスク分析を行うには,DST が導入されていない地域で,DSTの導入の有無で適切にランダム化した比較試験が必要であるが,先行研究(ヒトを対象とした睡眠研究および疫学研究)でリスクの可能性が指摘されている以上,倫理的に,この研究デザインを用いた研究を実施する可能性は極めて低い.しかしながら,DSTのリスクグループとされる人々が,特殊な限られた集団ではない点は注目に値する.DST(曝露)が地域全体に及んでいることとも考え合わせると,DSTによる睡眠や健康への全体としての影響は大きいと考えられ,この分野での研究の動向に注目して行く必要があると思われる.
著者
福田 治久 佐藤 大介 白岩 健 福田 敬
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.158-167, 2019-05-01 (Released:2019-06-13)
参考文献数
25

目的:2011年度より第三者提供が開始されたレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の研究利用が不十分な状況にある.学術研究を加速化させ,エビデンスに基づいた医療政策を推進するためには,NDBの活用可能性を高めていく必要がある.本研究の目的は,臨床疫学研究および医療経済研究を行うのに有用性が高く,かつ,データ容量の効率性が高いNDB解析用データセットを構築することである.方法:2009年 4 月から2016年12月の間の医科入院レセプトおよびDPCレセプトにおいて 1 度でも出現したことのある解析用患者IDを全データから無作為に25%分を抽出し,当該解析用患者IDの全期間における全診療行為情報を含む全レセプトデータを格納したNDBを用いた.臨床疫学研究および医療経済研究を行うのに有用性の高い解析用データセットテーブルに必要な変数について検討した.また,医科レセプトにおいては退院年月日情報が含まれていないことから,レセプトデータを用いた補完的な退院年月日を付加する方法について検討した.本検討では,退院年月日情報が含まれるDPCレセプトを用いて,入院年月日と診療実日数を用いる場合と,診療行為発生日を用いる場合のそれぞれの方法で退院年月日を算出し,実際のDPCレセプトに記載されている退院年月日との一致状況について検証した.結果:NDBに含まれるレコード識別情報を有機的に連結させた解析用データセットテーブルとして,以下の11テーブルを開発した:患者(KAN),レセプト(REC),傷病名(SYO),診療行為(SIN),薬剤(IYA),特定器材(TOK),調剤(TYO),調剤加算料等(TKA),DPC診断群分類(BUD),医療機関(IRK),入院(ADM).医療機関(IRK)を除く各テーブルは解析用患者IDによって相互に突合することができる.また,医科レセプトにおける補完退院年月日は,診療行為(SI),医薬品(IY),特定器材(TO),コーディングデータ(CD)の各レコードにおける診療行為年月日の最終日情報を用いることで,99.83%の入院症例において正しい退院年月日を付加することができた.結論:本研究において開発した解析用データセットテーブルを用いることで,NDBを用いた臨床疫学研究および医療経済研究を即座に実施可能な環境をもたらすことができる.
著者
宮城 浩明
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.563-573, 2015-12

各種の機器から発せられる電磁界に一般公衆がばく露される機会が増加している.これに伴い,電磁界による潜在的な健康影響についての懸念,とりわけ,頭痛,けん怠感,目眩,睡眠障害といった各種の非特異的な身体症状が生じるという主張がある.これらの症状は「電磁過敏症」と呼ばれており,苦しんでいる人々のwell-beingを損なう場合がある.そうした人々の懸念は正当なものであるが,これまで実施されてきた研究では,これらの症状と電磁界ばく露との因果関係を示す証拠は認められていない.本稿では,この「電磁過敏症」に関する現時点での知見について概観する.
著者
名城 健二
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.401-406, 2014-08

オーストラリア連邦(以下AU)政府は,国内において増え続けるファミリーバイオレンス(以下FV)が母子の身体面や精神面,子どもの脳に与える悪影響を防止するために国の政策としてその解決に力を注いでいる.中でもビクトリア州(以下VIC)は,2006年から特徴的なFVの対応と予防システムを構築している.このシステムは,FVサービスの統合を目指し,警察官と裁判官,地域のFVのスペシャリストにてFVの対応について共通理解し,共に行動し,FVの被害者に対し共通のアセスメントを行い,専門的なサービスを提供するという流れになっている.VICは,FVの対応と予防をPrevention(予防),Early intervention(早期介入),Crisis(危機介入)の三つのレベルに分けシステムを構築している.Preventionレベルは,教育により人々の態度と行動を変え暴力のない関係を作り,女性と子ども達への暴力による犠牲の予防を目的にしている.Earlyinterventionレベルは,暴力的な支配や暴力的な行動を見せている個人とグループの早期発見を目的にしている.このレベルで最も特徴的な取り組みは,2009年のシステム改良後から開始された,各関係機関において共通に使用するCommon Risk Assessment and Risk Management Framework(以下フレームワーク)である.これは警察署や学校,病院,裁判所等の各関係機関にて使用する用語に対する共通理解,認識を持ち共通アセスメントシートを用いてFVに取り組むシステムである.Crisisレベルは,暴力を受けた女性と子ども達を保護し,生活の再建を図り問題が再現しないよう予防するためにタイムリーに一貫した対応を目的にしている.VICのFVのシステムで特徴的なことは,何よりもFV の対応と予防を三つのレベルに分け,関連する全ての関係機関が同じシステムの中で機能していることである.その背景には,AU政府とVIC政府のFVの対応と予防のビジョンと予算立ての共通認識がある.特にフレームワークは,FVの対応において迅速に効果的な成果を残していると思われる.インタビューから,現時点において予算の減額はないが,サービス内容が毎年州の予算編成に左右される.サービス提供施設は増えないが,対応件数が年々増え多忙になり継続支援や予防的な取り組みが十分できないとことが課題として挙げられた.また,関係機関の立場上の違いから上手く共通認識が図れないことがあることや職員研修の機会が少ないことも挙げられた.これらの意見からすると,今後継続的な予算確保や現場における関係機関との連携をスムーズにしていく上での課題が残っていると言えよう.いずれにせよ,今後日本におけるFVの対応と予防システムを考える際,VICのシステムから参考にできることがあると考える.
著者
森川 美絵
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.129-135, 2009-06

フィンランド,ドイツ,アメリカ合衆国における介護人材の確保育成策について,インフォーマルな介護者への対応も含めた取り組みの概要,介護従事者の確保・労働条件改善にむけた施策,および,専門的な介護人材の養成に関する施策を検討した.介護供給の公私バランスやシステムは国ごとに異なるが,いずれの国においても家族介護者を支援するための公的施策が講じられ,その射程は,現金の手当・給付のみならず,休日の取得と代替介護の保障,社会保険料の負担(社会保険制度上の配慮),介護者向けのサービス・プログラムの利用支援,相談・指導など,広く設定されていた.介護従事者の確保・労働条件改善については,中高年失業者の再教育・資格取得支援のほか,賃金水準に対する公的部門の直接的な規制もみられた(ドイツ).また,賃金水準の設定については,個々の事業者内部での雇用契約を越えた,より大きな組織単位での協約や交渉が機能していた(ドイツ,フィンランド).人材の定着にむけて,低報酬と専門職としての向上機会の制限に対応する具体策として,キャリアラダーの仕組みづくりが事業者レベルで広がっている(アメリカ).また,専門的な介護人材の養成については,看護と介護の共通基礎教育や福祉と看護・保健医療の共通基礎資格の導入がはかられてきた(ドイツ,フィンランド).こうした共通基礎教育・資格の導入は,ケア人材の専門性・資質という観点のみならず,ケアサービスの構造変化に対応した柔軟な介護労働市場,介護労働力の創出という観点からも推進されていた.こうした諸外国での展開は,今後の日本における介護人材の確保育成に関する政策の枠組みや具体策の検討においても,参考となる.
著者
熊川 寿郎 森川 美絵 大夛賀 政昭 大口 達也 玉置 洋 松繁 卓哉
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.136-144, 2016 (Released:2017-05-18)
参考文献数
25

日本においては第二次世界大戦以前より年金保険及び医療保険制度が運営されてきたが,農業従事者や自営業者などのインフォーマルセクターの一部は未加入にあった.戦後の高度経済成長の中でインフォーマルセクターの問題を解消すべく,₁₉₆₁年に年金及び医療の国民皆保険を達成した.皆保険制度導入後の日本の歴史は,まさに高齢化対策の歴史と重なるものである. 日本は介護保険制度導入後も,超高齢社会のニーズにより適うためにケアの統合とプライマリケア・地域医療の強化を図っており,2₀₁₄年には「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」が成立した.この法律は可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進している.また,老年学及び老年医学の分野においてFrailty(フレイル)の概念が重要になってきている.Frailty(フレイル)とは高齢期によく見られる症候群であり,転倒,生活機能障害,入院,死亡などの転帰に陥りやすい状態である.Fraily(フレイル)を経て要介護状態になる高齢者が多く,その対策は地域包括ケアシステムの新たな重要課題である.厚生労働省は2₀₁₆年度より高齢者のフレイル対策を新たに実施する. 地域包括ケアシステムを構築し,各地域においてその質を向上させるためには,現在の地域資源のみならず,環境の変化により今後生まれてくる未来の地域資源をも戦略的に活用することが非常に重要になる.また同時に,地域資源の情報と実際のケアを結びつけるためのコーディネート機能の強化も必要となる.地域社会処方箋は,地域包括ケアシステムにおける非専門的サービスと専門的サービスを繋げる戦略的マネジメントツールである.同時にそのツールを活用することにより,地域資源のコーディネート機能を強化することができる.
著者
森川 美絵
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.355-361, 2009-12

貧困低所得者への社会福祉の支援の中心的制度は,生活保護である.生活保護における相談援助活動の評価には,「自立支援プログラム」の事業評価という次元と,生活保護担当職員による被保護者への個別的な相談援助活動の評価という,2つの次元が存在する.自立支援プログラムは,その数も種類も増加している一方で,多元的な自立支援の効果を測定するための指標が,整備されていない.貧困緩和へのアプローチの鍵となる概念である,参加,帰属,つながり,エンパワメント等の観点から,対象者の状態を把握しうる指標・尺度を適用し,事業の効果を測定することが,求められる.個別的な相談援助活動については,要・被保護者の権利保障という観点から,援助のプロセスそのものの質が問われる.現状では,要・被保護者の主体性の尊重につながる行為が,標準的な活動として定着していない.プロセスごとの「標準的な質を保証するための活動指標」を整備した上で,そうした指標にもとづき援助者自身が定期的に活動を自己点検する機会を確保していくことが,求められる.さらに,地域における包括的な支援・ケアの実現を目指すのであれば,個別の事業や援助者の活動の評価にとどまらず,複数の事業の連携により実現される地域単位の福祉状態を評価する手法や,そこで鍵となる連携やコーディネート機能を評価する手法の開発が,必要とされる.
著者
岸田 直裕 松本 悠 山田 俊郎 浅見 真理 秋葉 道宏
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.70-80, 2015-04

目的:我が国における飲料水を介した健康危機の発生実態を明らかとすることを目的とした.方法: 1983年 1 月から2012年12月までの30年間を対象期間とし,期間中に発生した飲料水を介した健康危機事例を収集し,健康危機の発生傾向について分析を行った.結果:過去30年間に飲料水を介した健康危機事例は約590件発生しており,化学物質が原因の事例が最も多かったが,明らかな健康被害が発生した事例では,原因物質の大半は微生物であった.地下水を水源とする専用水道や飲用井戸等の小規模の施設において健康被害を伴う水質事故が高頻度で発生しており,主要な発生要因は消毒の不備であった.また,飲料水を介した病原微生物が原因の健康リスクは米国やEUと比べ低く維持できていると示唆された.結論:我が国の飲料水を介した健康リスクを減少させるためには,飲用井戸,専用水道等の小規模施設の適切な衛生管理を実施していくことが重要である.
著者
五十嵐 中 福田 敬 後藤 励
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.426-432, 2015-10

FCTC第 6 条は,税収の確保ではなく公衆衛生の観点からの喫煙率低下を目指し,たばこ税の値上げを提言している.もっとも,2010年のような大幅値上げの可能性を評価するには,税収と喫煙率双方への影響評価が必要である.コンジョイント分析や価格弾力性を用いた研究では,大幅値上げを実施しても一箱あたりの税収増効果が総需要の減少効果を上回り,総税収は増加することが示唆されている.実際過去の値上げ前後の税収変動を見ると,値上げ後の方が税収は増加している.喫煙率低下を達成するには,たばこ税値上げ以外の禁煙政策を同時に実施することも効果的で,とくに公共空間での喫煙への罰金が有効であることが,コンジョイント分析によって示されている.禁煙治療や禁煙支援のように,総費用が減少してかつ健康アウトカムが改善する "dominant(優位)" 介入は,予防介入に限定しても極めてまれである.今回示したような定量的データは,合理的な政策決定にとっても有用である.
著者
逢見 憲一
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.236-247, 2009-09

目的:"スペインかぜ"を含む19世紀後半から現代に至るインフルエンザ流行の歴史を追い,その健康被害について可能な限り定量的に把握したうえで,公衆衛生の観点からみたインフルエンザ対策と社会防衛について検討する.方法:内務省衛生局編「流行性感冒」の他,各種資料,研究をもとに各時期におけるインフルエンザのパンデミック(世界的流行)あるいは非パンデミックの流行について記述した.インフルエンザの健康被害については,「超過死亡」の推計と検討を中心に把握した.その上で,各時期のインフルエンザ流行に対してどのような医療的あるいは公衆衛生的対策が行われたかを記述し,その役割と今日的意義について検討した.結果:"お染風"と恐れられた1889─91年パンデミックによる東京,神奈川の超過死亡は,1918─20年の"スペインかぜ"パンデミックに匹敵するものであった."スペインかぜ"以前の時期に比べて,"スペインかぜ"以後は年平均で約10倍の超過死亡がみられた."スペインかぜ"以後の1921年から1938年の超過死亡数の合計は,"スペインかぜ"流行期の超過死亡数の合計に匹敵するものであった.1952年から1974年までの間,アジアかぜと香港かぜのパンデミックを除いた非パンデミック期の超過死亡の総数は,両パンデミック期を合わせた超過死亡数の35. 倍以上であった.超過死亡年あたりの平均超過死亡数は,パンデミック期と非パンデミック期とでほとんど同規模であった.超過死亡に対するインフルエンザを直接の死因とする死亡の比は,パンデミック期には高く,非パンデミック期に入ると低下しており,非パンデミック期にはインフルエンザが"忘れられ"る傾向がみられた.わが国において学童への予防接種が実施されていた1970年代から80年代にはインフルエンザによる超過死亡は低く,1990年代の集団接種中止以降超過死亡が増加していたことに加えて,2000年代の高齢者への接種開始後はふたたび超過死亡が減少していた.インフルエンザへの対策は,1889─91年パンデミックの際には,迷信を非難し,滋養や医師の受診を勧める程度であったが,1918─20年の"スペインかぜ"パンデミックの際には,検疫,隔離,学校閉鎖,集会の禁止などの"公衆衛生的介入(Non-pharmaceutical Interventions)"が確立した.マスクや予防接種などは,その後個人防衛への遷移が進んだ.結論:インフルエンザ対策に関しては,非パンデミック期の対策を"忘れる"べきではない."公衆衛生的介入"については,"スペインかぜ"の経験に学ぶべきである.予防接種を含む"社会防衛"も再検討すべき時期である.
著者
渡辺 哲也
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.523-531, 2017 (Released:2017-11-28)
参考文献数
19

視覚障害者の意思疎通を支援する人的支援サービスである代読・代筆,点訳・音訳サービスに関する調査,及び携帯電話・スマートフォン・タブレット・パソコンを対象としたICT機器の利用状況調査を行った.その結果をもとに,サービスや機器の利用に地域間差が見られるかどうかを調べたところ,人的支援サービスとICT機器の利用の両方において利用率については地域間差は見られなかった.しかしながら人的支援サービスについてはサービス利用上の課題に対する自由意見から,点訳・音訳サービスの依頼先が少ない地域があるという意見も少数ながら得た.ICT機器の利用については,スマートフォン・タブレットの講習会が三大都市圏に集中している点に地域間差が見られた.
著者
D Husereau M Drummond S Petrou C Carswell D Moher D Greenberg F Augustovski Ah Briggs J Mauskopf E Loder[著] 白岩 健 福田 敬 五十嵐 中 池田 俊也[翻訳]
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.641-666, 2013-12

背景:医療技術の経済評価では,報告様式(reporting)に関する課題がある.経済評価では,研究結果の精査を可能にするために,重要な情報を伝えなければならない.しかし,公表される報告は増加しているにもかかわらず,既存の報告様式ガイドラインは広く用いられていないのが現状である.そのため,既存のガイドラインを統合・更新し,使いやすい方法で,その活用を促進する必要がある.著者や編集者,査読者によるガイドラインの使用を促進し,報告様式を改善するための一つの手法がチェックリストである.目的:本タスクフォースの目的は,医療経済評価の報告様式を最適化するための推奨(recommendation)を提供することである.The Consolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards (CHEERS)声明は既存の医療経済評価ガイドラインを現時点における一つの有用な報告様式ガイダンスに統合・更新する試みである.The CHEERS Elaboration and Explanation Report of the ISPOR Health Economic Evaluation Publication Guidelines Good Reporting Practicesタスクフォース(以下CHEERSタスクフォース)はCHEERS声明の使用を促進するため,それぞれの推奨に対する具体例や解説を提供する.CHEERS声明の主な対象は,経済評価を報告する研究者,出版のための評価を行う編集者や査読者である.方法:新たな報告様式ガイダンスの必要性は医学編集者を対象とした調査によって確認された.過去に出版された経済評価の報告様式に関するチェックリストやガイダンスは,システマティックレビューやタスクフォースメンバーの調査によって同定した.これらの作業から,候補となる項目のリストを作成した.アカデミア,臨床家,産業界,政府,編集者の代表からなるデルファイ変法パネルを2ラウンド行うことによって,報告様式に不可欠な項目の最小セットを作成した.結果:候補となる44項目の中から24項目とそれにともなう推奨が作成された.そのうち一部は単一の研究に基づく経済評価を,一部はモデルに基づく経済評価を対象としている.最終的に推奨は,6個の主要なカテゴリーに分割された.1)タイトル(title)と要約(abstract),2)序論(introduction),3)方法(methods),4)結果(results),5)考察(discussion),6)その他(others)である.推奨はCHEERS声明における24項目からなるチェックリストに含まれている.タスクフォースの報告ではそれぞれの推奨に関する解説と具体例を作成した.ISPOR CHEERS声明はValue in Health誌あるいはCHEERSタスクフォースのウェブページ(http://www.ispor.org/TaskForces/EconomicPubGuidelines.asp)から利用可能である.結論:CHEERS声明とタスクフォースによる報告様式に関するガイダンスは,一貫性があり透明性の高い報告様式と,究極的にはよりよい医療上の決定につながるだろう.本ガイドラインの普及や理解を促進するために,医療経済あるいは医学雑誌10誌でCHEERS声明を同時に出版している.そのほかの雑誌や団体にもCHEERS声明を広く伝えることを勧める.著者らのチームはチェックリストをレビューし,5年以内に更新することを計画している.
著者
鈴木 孝太
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.484-494, 2015-10

近年,胎児期および出生後早期の環境,特に栄養状態がその後の健康状態や疾病に影響するというDevelopmental Origins of Health and Disease (DOHaD)説が広く知られるようになり,胎児期や小児期の発育・発達が注目を集めている.特に,妊婦や子育て中の喫煙は,これらの発育・発達に影響を及ぼすことが示唆されており,国際的にも重要な公衆衛生学的問題の一つである.そのため,まず,日本人を対象とした科学的なエビデンスを蓄積していくことが重要である.そのような状況で,わが国における若い女性の喫煙率は,2000年前後をピークに低下に転じており,妊婦や母親の喫煙率についても同様の傾向が示唆されている.一方で,日本における若い女性,特に妊婦や子育て中の母親の喫煙が,母親本人や胎児,また出生児の健康に与える影響についての検討は,出生体重や一部の妊娠合併症,さらに出生児の発育やアレルギー疾患などについて行われているものの,対象となるアウトカムが限られていること,また,研究デザインや対象者,さらには検討を行っている地域にも限界があり,まだまだ十分とは言えない状況である.今後,厚生労働省が実施している21世紀出生児縦断調査や,環境省が実施しているエコチル調査など,全国データによる幅広いアウトカムの検討を進めていくとともに,各地域でも既存のデータを活用し,地域住民に還元できるエビデンスを蓄積してくことが重要であろう.
著者
堀口 逸子
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.150-156, 2013-04

本研究では,筆者が関わった福島原子力発電所事故対応としてのリスクコミュニケーション事例を整理すること,また,今後のリスクコミュニケーションにおいて提供される情報の内容を明らかにし,そのための媒体を開発することの3つを報告する.事例は,福島県内で開催された住民対象説明会及び栃木県が開催した有識者会議である.提供されるべき情報の内容を明らかにするために,全国の食品衛生監視員31名を対象としてデルファイ法による質問紙調査を実施した.媒体開発は,ゲーミングシミュレーションを利用した.事例は,公開されている資料を用い,調査は同意が得られた者のみを対象とした.食品に含まれる放射性物質に関して消費者が学ぶべき内容は,第1位「ゼロリスクは不可能であること」(84点),第2位「放射性物質とそれ以外のリスク(喫煙や過度の飲酒など)」(70点)であった.媒体は,「カルテット」(カードゲーム)を採用し,「日常生活」「放射性物質」「測定」等の内容となった.事例では,住民からの質問は,リスクの個人選択に関することが少なくなく,ホームページなどで回答が見つからないことが多いことが考えられた.これは,質問紙調査結果で抽出されたように,国民個々人が様々なリスクに対する考え方を身に付けていかなければ解決が困難であるように考えられた.リスクに関して,専門家のヒューマンパワー不足等から,自治体職員による情報提供はやむを得ず,そのためリスクコミュニケーショントレーニングは欠かせない.カードゲームは,今後評価をし,情報の受け手に配慮した内容に改訂していかなければならない.
著者
木村 映善
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.179-190, 2018-05-31 (Released:2018-06-30)
参考文献数
24

悉皆的に収集されたReal World Data(RWD)を用いた観察研究からエビデンスを導出できるような取り組みが求められている.データベース設計に関する課題として,標準情報モデルへの統合,統制用語へのマッピング,各施設の測定結果などの組織間較正,患者個体の識別・追跡性の確保およびデータソースを巡るバイアスについて提示した.これらの課題を踏まえて,RWDからのETL手法の標準化,標準化されたデータベース構造の定義,コホートを適切に定義する方法論,RWDデータの素性の特定と品質改善,そしてRWDを収集する対象と時系列上の網羅性の確保が,医療ビッグデータ時代に課せられた優先度の高い研究テーマであることを提示した.標準化されたデータベースとコホートを適切に定義する方法論について焦点をあて,先行研究としてeMERGEプロジェクトにおけるPheKBというフェノタイピング手法を公開するリポジトリと,OHDSIプロジェクトにおけるOMOP CDMによるデータベースの構造の標準化と標準統制用語集の取り組みについて紹介した.今後の我が国における取り組みの一案として,国内事情を踏まえたDWHの取り組みと国内外のCDMと統制用語集のマッピングの取り組みとの間に責任分界点を設定したプロジェクトを立ち上げることを提案する.
著者
渡辺 哲也
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.523-531, 2017

<p>視覚障害者の意思疎通を支援する人的支援サービスである代読・代筆,点訳・音訳サービスに関する調査,及び携帯電話・スマートフォン・タブレット・パソコンを対象としたICT機器の利用状況調査を行った.その結果をもとに,サービスや機器の利用に地域間差が見られるかどうかを調べたところ,人的支援サービスとICT機器の利用の両方において利用率については地域間差は見られなかった.しかしながら人的支援サービスについてはサービス利用上の課題に対する自由意見から,点訳・音訳サービスの依頼先が少ない地域があるという意見も少数ながら得た.ICT機器の利用については,スマートフォン・タブレットの講習会が三大都市圏に集中している点に地域間差が見られた.</p>
著者
成木 弘子
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.47-55, 2016-02

超高齢社会を迎える2025年問題に対応する為に地域包括ケアシステムの構築が開始されている.地域包括ケアシステムは,英語ではCommunity-based integrated care systemsと表記され,ケアの統合を目指している.また,多職種および多機関の連携が重要であるが,統合や連携,および,システムのとらえ方は様々である.そこで本稿では,包括地域ケアシステムの構築における "連携"の課題と"統合" 促進の方策について,II.地域ケアにおけるシステムアプローチの基本,III.ケアシステムの連携と統合の概要,IV.地域包括ケアシステムを構築する為の統合(integration)の方法を整理した上で,V. 5 年後まで達成する課題をふまえながら対応方法を探求することを目的とした.その結果,「調整・協調(coordination)」レベルに統合した地域ケアシステムの構築が急務の課題であると考えられ, 5 年後にこの課題を達成する為には,(1)混乱している情報の整理と適切な情報の発信,(2)「調整・協調(coordination)」の統合レベルの地域包括ケアシステムへの推進方法の開発,(3)人材の育成が必要であると結論づけた.
著者
鍵 直樹
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.350-358, 2014-08

建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法)における空気環境に関する建築物環境衛生管理基準の項目として,浮遊粉じん,二酸化炭素,一酸化炭素,ホルムアルデヒドがある.しかし,室内の空気汚染物質については,上記の他にも数多くある.そこで本報告では,室内空気汚染に関する問題及び研究動向について,海外のレビュー論文を元に概説すると共に,近年の研究の動向から新たに注目される今後の室内空気汚染の課題について検討を行った.1950年代からの室内汚染の変遷としては,建築材料,内装材料の変化,生活習慣の変化などから,汚染物質が減少したもの,増加したものがあること,今後は浮遊微生物やそれに関連して微生物から発生する微生物由来揮発性有機化合物(MVOC)などが課題となることを示した.更に,今後の注目すべき室内空気汚染について,MVOC,微粒子及びハウスダストについて,既往の研究を元に概説した.MVOCについては,それぞれの微生物に対して発生するVOCについて紹介し,それぞれのVOCと健康影響に関する知見について示したが,未だMVOCの直接的な影響において不明な点が多いことを述べた.微粒子については,PM2.5を中心にその室内発生源と,PM2.5濃度の特徴について述べた.室内の発生源については,燃焼によるものの他に,化学物質の二次生成やレーザープリンタからの超微粒子の発生などについても示し,室内濃度の傾向としては,建築物の空調機に装着されているエアフィルタの重要性について示唆した.最後に,ハウスダストの問題として,ハウスダストに吸着する準揮発性有機化合物(SVOC)と健康影響,ハウスダスト中に含有するSVOC濃度の現状について示し,今後のデータの蓄積により,SVOCと症状との因果関係についての議論の期待について述べた.