- 著者
-
川野 健治
- 出版者
- 一般社団法人日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.4, pp.395-403, 2012-12-20
本稿の目的は,暴力と自殺を通して貧困について考えることである。ただし,社会的排除を強めることになりかねないので,暴力と自殺の共通性を仮定することには慎重でありたい。貧困は,アノミー論や内的衝動論が示すように,個体の暴力発生の確率を高める側面をもっている。しかし,そればかりではなく,児童虐待,配偶者間暴力,犯罪の側面からみると,暴力の方向性に影響を与えている可能性がある。一方,自殺については,景気変動との関係は指摘されており,理論的な説明も試みられている。しかし,社会経済状況やそれに基づく社会資源の不足を指標とした貧困と自殺関連行動との関係性についての実証的研究では,一貫した結果は得られていない。暴力と自殺を通して見出される貧困の特徴とは,解消すべき内的な心理状態を生み出すものであり,その発露に対する防御因子,たとえば家族との適切な交流とか,支援・サービスの利用とか,安定した住環境とか,教育の機会を剥奪するものであった。しかし,逆にいえば,貧困に注目することで,暴力や自殺の発生を規則的に把握することができる。ニッチとしての貧困という視点からの研究を進めることで,これらの社会病理を管理する手がかりを得られるのではないだろうか。