著者
宮内 洋
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.404-414, 2012

本稿では,かつて北海道大学教育学部における学際的研究グループによって進められていた「貧困と子ども」に関する研究の一部を紹介しながら,歴史学やルポルタージュの知見も用いて,発達心理学の基礎的知見と貧困との関係についての考察をおこない,今後の課題を挙げた。具体的には,人間の発達における各ステージのうち,誕生から児童期まで(胎児期,新生児・乳児期,幼児期,児童期)に限定し,この各ステージにおいて,貧困が各々の子どもの発達にどのようにかかわっている可能性があるのかについて,生活環境を中心にして考察をおこなった。このプロセスを通して,これまで日本国内における発達心理学研究の多くが「絶対的貧困(absolute poverty)」の状態にある子どもや養育者を除外してきた可能性を指摘した。しかし,貧困世帯が広がる現代日本社会においては,研究者側が気づかぬままに実験や観察等の場で「相対的貧困(relative poverty)」状態の子どもや養育者にすでに出会っている可能性があることも指摘し,研究者側が貧困と社会的排除に対して自覚的になる必要性を述べた。最後に,本稿での考察から,社会科学的な概念である「絶対的貧困」と「相対的貧困」について,発達心理学の観点からの定義の提唱も試みた。

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