著者
宮内 洋 松宮 朝 新藤 慶 石岡 丈昇 打越 正行
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.131, pp.33-54, 2018-06-28

本稿は,〈生活-文脈〉理解研究会による「貧困調査のクリティーク」として発表し続けている共同研究成果である。3番目の成果となる本稿では,日本国内における社会学研究の古典の一つである「まなざしの地獄」を対象とした。本稿においては,貧困の〈生活-文脈〉理解のパースペクティヴから,個別性にこだわりながらクリティークをおこなった。特に,「N・N」と見田宗介が表記する永山則夫の実際の生活史を愚直にたどり直すことによって,「都市のまなざし」と見田が論じた総体の内実に疑問が生じることとなった。「都市のまなざし」によってまなざされる側の個別の事情,つまり,集団就職によって地方から上京する「流入青少年」たちの〈生活-文脈〉,そして,彼らを住み込みという就業形態で雇用し,共に生活していく都市部の中小・零細企業の雇用主とその家族の〈生活-文脈〉を捨象しているのではないかという疑問と,都市の劇場性への疑問である。
著者
宮内 洋 松宮 朝 新藤 慶 石岡 丈昇 打越 正行
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.120, pp.199-230, 2014-06-30

本稿は,久冨善之編著『豊かさの底辺に生きる――学校システムと弱者の再生産』(青木書店,1993 年)を現在の研究視角から見つめ直したクリティークである。この共同研究は1980 年代後半から1990 年代初頭までの「バブル」の陰に隠れた日本社会の貧困をめぐって,北日本のB 市A 団地における調査をもとに,「貧困の再生産」や「剥奪の循環」といった定型像を打ち破ることを目指した意欲的なものである。では,この目的は実現されたのだろうか。この点について,「〈生活?文脈〉理解研究会」全メンバーが,認識枠組み(レンズ)の問題,調査における自己言及的なリフレキシビティ,青年層の理解,学校および教師に関する問題,住民のコミュニケーションなどについて各々の専門領域から検討し,定型像の押しつけや調査の方法論的限界という点を批判した。その上で,上掲書に内包された将来への可能性,そして今後の貧困をめぐる実証研究の方向性の提示を試みている。
著者
宮内 洋
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.28-48, 2004 (Released:2020-07-05)

小型化・軽量化・低価格化・操作単純化されていくことによって,小型ビデオカメラ等の録音・録画機器が普及し,私たちのフィールドワークも様変わりしてきた。フィールドにおける記録は,以前よりも簡便に可能となったように見える。このことによって,フィールドにおける場面の微細な分析も可能になるなど,私たちのフィールドワークの精度も高まったかもしれない。しかし,一方で,〈出来事〉の説明の複雑化ももたらしたようにも見える。「羅生門問題」とは目撃者の人数分の状況説明の出現という事態を表象したものであるが,記録された音声と映像の入手は,一人の個人においても複数の状況説明が現れるという事態を創出したのではないだろうか。本稿は,ある幼稚園におけるフィールドワークで直面した幼児同士の「トラブル」の分析によって現れた,小型ビデオカメラが普及した現代におけるフィールドワークに関する一つの問題提起である。いわば,記録された音声と映像を手にすることによって,自らの中に「藪の中」を抱え込んでしまったフィールドワーカーを狂言回しとする,一つのフィールドワーク論である。
著者
宮内 洋 松宮 朝 新藤 慶 石岡 丈昇 打越 正行
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.122, pp.49-91, 2015-06-29

本稿は,貧困調査のクリティークの第2 弾として,西田芳正『排除する社会・排除に抗する学校』(大阪大学出版会,2012 年)を対象に,貧困調査・研究が陥りがちな諸課題を指摘した論考である。当該書は,1990 年代から西田が取り組んできた調査研究の知見を,貧困層の社会的排除という形でまとめ直したものである。当該書では,関西圏の「文化住宅街」や「下町」を中心的な対象とし,これらの地域に暮らす「貧困・生活不安定層」の生活や教育の実態・意識が明らかにされている。この研究に対し,「〈生活―文脈〉理解研究会」のメンバーが,理論的なレベル,方法的なレベル,そして若者,学校,地域という具体的なテーマのそれぞれの視点から批判的な検討を行った。これらの検討から浮かび上がったのは,当該書における〈文脈〉の捨象と,そのことが分析にもたらす問題である。本稿を通じて,貧困調査に求められる〈文脈〉のふまえ方が示された。
著者
宮内 洋 松宮 朝 新藤 慶 石岡 丈昇 打越 正行
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.120, pp.199-230, 2014

本稿は,久冨善之編著『豊かさの底辺に生きる――学校システムと弱者の再生産』(青木書店,1993 年)を現在の研究視角から見つめ直したクリティークである。この共同研究は1980 年代後半から1990 年代初頭までの「バブル」の陰に隠れた日本社会の貧困をめぐって,北日本のB 市A 団地における調査をもとに,「貧困の再生産」や「剥奪の循環」といった定型像を打ち破ることを目指した意欲的なものである。では,この目的は実現されたのだろうか。この点について,「〈生活?文脈〉理解研究会」全メンバーが,認識枠組み(レンズ)の問題,調査における自己言及的なリフレキシビティ,青年層の理解,学校および教師に関する問題,住民のコミュニケーションなどについて各々の専門領域から検討し,定型像の押しつけや調査の方法論的限界という点を批判した。その上で,上掲書に内包された将来への可能性,そして今後の貧困をめぐる実証研究の方向性の提示を試みている。This review article concerns the Yutakasa no teihen ni ikiru:Gakkou shisutemu to jyakusya no saiseisan(Yoshiyuki Kudomi et al.,1993,Tokyo:Aoki syoten) from current sociological viewpoints. The book was an attempt to break the collective myth of the Japanese asset price bubble, by highlighting the realities of the lives of the dispossessed and dishonored, who resided in a housing project in a provincial city situated in Japan. The firsthand data presented by the authors enabled reconsideration of the discourse's stereotype such as"reproduction of poverty" or"cycle of deprivation."However, the book still relied on the common representations of destitution, as opposed to the scientific objects. This article,written by all members of the research project Seikatsu-Bunmyaku Rikai Kenkyukai , highlights the false ideas and methodologies used in the book, relating to the frame of constructing the research object, reflexivity to rupture stereotype images, understanding the youth,school,and teacher,as well as ways of research on the social relationships of the residents. In summary, the book reproduces the stereotypes of the residents as outcasts.Finally,some theoretical and methodological implications for the future studies of poverty are discussed.
著者
宮内 洋
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.404-414, 2012-12-20 (Released:2017-07-28)

本稿では,かつて北海道大学教育学部における学際的研究グループによって進められていた「貧困と子ども」に関する研究の一部を紹介しながら,歴史学やルポルタージュの知見も用いて,発達心理学の基礎的知見と貧困との関係についての考察をおこない,今後の課題を挙げた。具体的には,人間の発達における各ステージのうち,誕生から児童期まで(胎児期,新生児・乳児期,幼児期,児童期)に限定し,この各ステージにおいて,貧困が各々の子どもの発達にどのようにかかわっている可能性があるのかについて,生活環境を中心にして考察をおこなった。このプロセスを通して,これまで日本国内における発達心理学研究の多くが「絶対的貧困(absolute poverty)」の状態にある子どもや養育者を除外してきた可能性を指摘した。しかし,貧困世帯が広がる現代日本社会においては,研究者側が気づかぬままに実験や観察等の場で「相対的貧困(relative poverty)」状態の子どもや養育者にすでに出会っている可能性があることも指摘し,研究者側が貧困と社会的排除に対して自覚的になる必要性を述べた。最後に,本稿での考察から,社会科学的な概念である「絶対的貧困」と「相対的貧困」について,発達心理学の観点からの定義の提唱も試みた。
著者
宮内 洋 松宮 朝 新藤 慶 石岡 丈昇 打越 正行
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.122, pp.49-91, 2015

本稿は,貧困調査のクリティークの第2 弾として,西田芳正『排除する社会・排除に抗する学校』(大阪大学出版会,2012 年)を対象に,貧困調査・研究が陥りがちな諸課題を指摘した論考である。当該書は,1990 年代から西田が取り組んできた調査研究の知見を,貧困層の社会的排除という形でまとめ直したものである。当該書では,関西圏の「文化住宅街」や「下町」を中心的な対象とし,これらの地域に暮らす「貧困・生活不安定層」の生活や教育の実態・意識が明らかにされている。この研究に対し,「〈生活―文脈〉理解研究会」のメンバーが,理論的なレベル,方法的なレベル,そして若者,学校,地域という具体的なテーマのそれぞれの視点から批判的な検討を行った。これらの検討から浮かび上がったのは,当該書における〈文脈〉の捨象と,そのことが分析にもたらす問題である。本稿を通じて,貧困調査に求められる〈文脈〉のふまえ方が示された。This review article concerns the Haijyo suru syakai haijyo ni kousuru gakkou (Yoshimasa Nishida, 2012, Osaka: Osaka University Press) as the second fruit of our research group, which engages in elaborating the theories and concepts of poverty research. The book constitutes fragmented research results dating from the 1990s based on the surveys of the buraku and the young working poor in Japan. The author composes these fragmented topics into a theme of social exclusion of the poor. The case studies on bunka jutaku and downtown areas are described in terms of the livelihoods and educational expectations of the young residents belonging to the "social stratum of poverty and instability." Our research group rigorously reviews the book on theoretical and methodological levels and raises alternative interpretations of the topics of youth, schooling, and the local community. We conclude that the book definitely pays no attention to the life contexts of the research subjects and ignores their realities. It seems that rather than deconstructing the myth of poverty and social exclusion, the book ends up reinforcing it. The book produces only immaterial and conventional discussions.
著者
宮内 洋
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.404-414, 2012

本稿では,かつて北海道大学教育学部における学際的研究グループによって進められていた「貧困と子ども」に関する研究の一部を紹介しながら,歴史学やルポルタージュの知見も用いて,発達心理学の基礎的知見と貧困との関係についての考察をおこない,今後の課題を挙げた。具体的には,人間の発達における各ステージのうち,誕生から児童期まで(胎児期,新生児・乳児期,幼児期,児童期)に限定し,この各ステージにおいて,貧困が各々の子どもの発達にどのようにかかわっている可能性があるのかについて,生活環境を中心にして考察をおこなった。このプロセスを通して,これまで日本国内における発達心理学研究の多くが「絶対的貧困(absolute poverty)」の状態にある子どもや養育者を除外してきた可能性を指摘した。しかし,貧困世帯が広がる現代日本社会においては,研究者側が気づかぬままに実験や観察等の場で「相対的貧困(relative poverty)」状態の子どもや養育者にすでに出会っている可能性があることも指摘し,研究者側が貧困と社会的排除に対して自覚的になる必要性を述べた。最後に,本稿での考察から,社会科学的な概念である「絶対的貧困」と「相対的貧困」について,発達心理学の観点からの定義の提唱も試みた。