- 著者
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伊藤 明美
- 出版者
- 多文化関係学会
- 雑誌
- 多文化関係学 (ISSN:13495178)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, pp.3-14, 2004
共感は、異文化コミュニケーション研究において一般的に使用される概念の1つとなったが、その理解については研究者の個人的判断にまかせられることが多い。本論では、これまで共感研究の中心であった心理学での発見と日本および英語文化圏での日常的理解を参考にしながら、異文化コミュニケーションで求められる共感について「互恵的関係構築を目的とし、他者の視点や立場からそれらが埋め込まれた文化文脈の中で他者感情や体験を共有する認知的・情緒的能力」と定義し、その上で、こうした共感には非二元論的な自己理解が重要となることについて論じる。共感には他者との同一性を求める感性や態度が少なからず必要と考えるが、このような意味で仏教における無我の概念は多くの洞察を与えてくれる。なぜなら、無我の根底には二元論を超えた自己理解が存在するからである。しかも、無我は無自己を意味するのではなく、むしろ自己追求のプロセスであり、共感が自己喪失を招くとする米国人的な不安もない。異文化コミュニケーションで目指されるべき建設的な人間関係の構築は、こうした東洋的自己理解を前提とした共感によって、大きな一歩を踏み出しうるのではないかと考える。