- 著者
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渡辺 京子
- 出版者
- 多文化関係学会
- 雑誌
- 多文化関係学 (ISSN:13495178)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, pp.1-14, 2005-10-05
本稿の目的は、多国籍企業社内での意思決定のための会議において日本人とドイツ人の参加者がそれぞれどのようにコミュニケーションを行っており、そこにはどのようなスタイルの差が見受けられるかということを実際に行われた会議の音声収録データをフレーム分析の方法論で考察し、その背景を探ることである。両者の会議発言の構成やフレームの取り方には対照的な差が見られた。日本人は、「前置き-背景説明-短い主張」というフレームで発言しており、ドイツ人は「発言の題目表示-理由説明-まとめ及び行動への呼びかけ」という流れがほぼ一貫して見られた。更に日本人の場合にはそれぞれのフレームの境目が明確に浮かびあがらず、全体とした流れとなってそこに主張が埋め込まれていた。個人間の発話も同様の構造が見られ、積極的に主張を展開することはせず、合意はプロセス共有の果実であり当然の帰結として生じるという暗黙の意識が感じられた。ドイツ人は構成部分を明確に区分けしており、それぞれの区分が際立つ話し方をし、個人間でも同様に明確な領域を主張しながら意思決定に貢献しようとする姿が見られた。このような構造的なスタイルの差異は、意思決定の会議に対する異なる志向性によるものと考えられる。日本人は、思考のプロセスの共有に重きを置き、ドイツ人は明確な領域を主張しながらの意思決定への貢献を志向していると思われる。