著者
浜井 浩一
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.38, pp.53-77, 2013-10-15

本稿は,2002年をピークとする一般刑法犯認知件数の急増・急減,特にその大きな原動力となった街頭犯罪認知件数の変動を分析すると同時に,近時,先進国の多くで犯罪が減少している状況を踏まえ,より長期的な視点から犯罪を減少させている要因を探ってみたい.言うまでもなく,認知件数は,様々なルートから警察に届けられた事件の中から警察が犯罪として認知した事件の件数を計上したものである.事件処理のスクリーニングが一定であれば,その数字は発生する犯罪の増減を反映する.反面,スクリーニング等の方法を変えると犯罪発生とは関係なく認知件数は増減する.さて,2002年をピークとする認知件数の減少はそのどちらによってもたらされたものだろうか.答えは,その両方である.2003年から街頭犯罪の認知件数の削減が警察評価における数値目標として設定された.街頭犯罪は,対象や手口がわかりやすいため防犯対策をとりやすい.自動販売機の堅牢化によって自動販売機ねらいは急速に減少した.車上ねらいや自転車盗・バイク盗も急減した.同時に,数値目標が一人歩きをして,車上ねらいの数え方を工夫する努力が行われたことも明らかとなった.いずれにしても暗数の少ない殺人等の認知件数や犯罪被害調査などから確実に言えることは,近時,犯罪が減少しているということである.では,殺人などの重大犯罪はなぜ減少しているのか.一つは,少子化の影響が考えられる.犯罪の主な担い手は30歳未満の若者である.若者の人口が減れば犯罪も減ることが予想され,日本でも戦後少子・高齢化の進行とともに犯罪は減少している.また,アメリカの心理学者ピンカーは,さまざまな資料を駆使して,現代人は,人類史上最も暴力の少ない時代に生きていると主張している.ピンカーは,それは種としての人類の進歩によるものであり,私たちの中にある共感や自己統制といった「より良き天使(better angels)」が復讐やサディズムといった「内なる悪魔(inner demons)」を凌駕した結果である主張している.2002年をピークとする認知件数の急上昇・急降下は,街頭犯罪をターゲットとし,数値目標を設定したことによってもたらされたものであり,そこに防犯意識の高まりが一定貢献したことは間違いない.しかし,防犯意識は,警戒心や不信感と表裏一体である.犯罪のない社会が市民を幸福にするとは限らない.認知件数を数値目標にすることの意味をもう一度考えてみるべきであろう.

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