著者
林 玲子
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.449-458, 2013-10

ミレニアム開発目標(MDGs)は2015年に期限を迎えるが,一定の結果を出している.次なるポスト2015年開発目標は現在策定が進行中であるが,リオ地球環境サミット(1992年),カイロ国際人口開発会議(ICPD:1994年),北京女性会議(1995年)といった複数の開発分野を統合した形となるようである.古代から明瞭な分野が確立されていた医学と違い,人口学は近代の民主主義思想とともに欧米で18世紀より発展した新しい領域である.さらに人口学が国際的な広がりを持つようになったのは世界人口会議が開催され始めた1920年代からである.当初は学術的な要素が強かった人口問題は,1970年代から人口爆発として地球規模問題に発展し,さらに1990年代ICPDの頃より「開発」という文字が入り,国際協力という実践の場に組み入れられるようになった.またICPDを契機に「人口問題」は,女性の健康,リプロダクティブ・ヘルスに重点が置かれるようになり,保健と人口は,特に開発という観点から密接な関係を有するようになる.ICPDは当初からセクシュアル・リプロダクティブ・ライツ,つまり中絶,同性愛の是非について議論があった.イスラム諸国,アフリカ諸国のみならず,アメリカやロシアといった国が政権交代により大きく態度を変えるため,ICPDの存在自体を揺るがしており,20年経った今でも状況は変わっていない.日本は第二次世界大戦後の優生保護法の制定,1970年代の日本人口会議などを通じた人口抑制政策を通して,人口爆発への対応は見事に結果を出した.その後1980年代から1990年代にかけて,世界のトップドナーの地位を得ながら人口分野における国際貢献を行っていたが,ODA予算削減にあわせ,近年はより戦略的かつ「スマート」な取り組みが模索されている.今後の人口分野の新しい切り口として,普遍的な人口登録,人口高齢化,人口移動などが挙げられるが,人間開発における基本インフラというべき,出生・死亡などに関する人口データをきちんと収集・分析し,評価に活用するためのインフラを構築・維持していくことがポスト2015年開発目標の基礎として認識されるべきである.

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