著者
木下 衆
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.45-57, 2014

「認知症」という医学的なラベルが付与されることで、患者の周囲の人びとはどう振る舞うようになり、また患者本人の行為はどう意味づけられるのか?現在の日本は「新しい認知症ケア」時代にある。「新しい認知症ケア」とは、患者とのコミュニケーションを重視する介護観を指す。この介護観のもと、介護者達は患者への「道徳的配慮」を常に行い、何らかの反応を期待して「はたらきかけ」をすることになると、指摘されていた(井口2007)。そこで本稿は、「認知症」を患うLと、その家族とのやり取りを集中的に分析する。Lの家族は、患者への「はたらきかけ」を強く志向している点で、「新しい認知症ケア」時代において特徴的な事例だと考えられるからだ。本稿では、Lに対する家族の「はたらきかけ」に、ある種の基準が存在することを指摘する。家族は、彼女が認知症を発症する以前の生活の様子を基準に、「はたらきかけ」をする。この基準を、老年精神科医の小澤勲(2003)に準え、「人生」と呼ぼう。しかし認知症の特徴である「記憶障害」「病態失認」ゆえに、患者本人に「人生」を尋ねることは難しい。そのために、「介護者が自分たちの知識を総動員しなければならない」という事態が生じる。相手がどんな過去を背負い、何を好み、何を望んでいるか、そういった患者の「人生」は、人びとの「あいだ」(西阪1997)でなされる相互行為(はたらきかけ)の中で発見され、再構築されている。

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@earth_chida アルヴァックスは「場所」に重点を置いてますが、「対話」での想起に関してはそれこそライフストーリーとライフヒストリーの議論が詳しいと思います(たとえば:https://t.co/frDwXxX0e9)。 若干ズレますが認知症患者の人生を介護者が捉え直す話も医療社会学でありました(https://t.co/tnc4UzIvf5)

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