著者
廣嶋 清志
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.26, pp.1-20, 2000-06-01
被引用文献数
2

1970年代半ばからの合計出生率低下の人口学的要因について多くの研究が行われてきたが,一般的に,年齢別有配偶出生率を用いた要因分解の結果に基づき,夫婦出生率が低下に寄与していないと認識されている。本稿は,コーホートの初婚率,出生率を人口動態統計と国勢調査結果に基づきあらためてより厳密に計測し,これを用いて年次別出生率を再現するモデルによってシミュレーションを行うことにより,1970年代半ばからの合計出生率低下に対する結婚と結婚出生率の寄与の大きさを明らかにした。これに必要なコーホートの初婚率と出生率は年次別年齢別の初婚率と出生率から導かれたが,後者は,1947年から1998年まで52年間の人口動態統計による女子の年齢別初婚数と出生数に基づき,今回改めて計算しなおした。コーホートの初婚水準(生涯既婚率),初婚期(平均初婚年齢),既婚出生水準(生涯既婚出生率),既婚出生期(平均初婚出生間年数)の4変数について,それぞれ1933-34年コーホート以後,その値が一定かあるいは現実どおりに変化したかの2種を設定し,16通りのシミュレーションを行った。その結果,1970-2000年の全期間についてみると,合計出生率低下(2.138→1.386)0.748の過半56.7%はコーホートの初婚水準低下(非婚化)によるものであり,13.5%が初婚期の遅れ(晩婚化)による。また,24.5%は既婚出生率水準低下(生涯既婚出生率低下)により,5.3%が既婚出生期の遅れによるものである。したがって,結婚の要因と夫婦出生率の要因の寄与量の比率は7:3である。したがって,少子化対策においては,晩婚化・非婚化に対する対策だけでなく,夫婦の出生率に直接関わる条件についての政策の重要性が改めて明らかにされた。この結果は,Ryderの量指標とテンポ指標による結果ともよく合っており,また,コーホート出生率のテンポの遅れがもたらす年次別合計出生率の低下量についての定量的関係も確認された。

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