著者
是川 夕
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-17, 2009-05-31

在日外国人は,戦後の一時期を除けば継続的に増加しており,特に1980年代後半のバブル経済期に大幅に増加した。在日外国人は,特定地域への集住の観点から論じられてきた。その結果,日本における外国人研究は,おもに都市,地域社会学によって,東京の新宿,池袋,そして静岡県浜松市といった個々のエスニック・コミュニティに焦点を絞って行われてきた。それとは対照的に,外国人の特定地域への集住現象,とりわけ外国人の住み分けについて定量的な観点から行われた研究は非常に少ない。一方,最近では,外国人の定住化が進むとともに,一部の地域では,外国人住民と日本人住民との摩擦が見られ始めているといった状況を反映して,定量的な観点から外国人の住み分けについて分析することの必要性が高まっていると言えよう。本稿では,外国人と日本人の住み分けの程度を算出するため,全国の自治体から外国人比率の高い上位10%を抽出し,それぞれについて国勢調査小地域集計に基づき,非類似性指数を求めた。この結果に基づき,重回帰モデルを用いて,外国人の住み分けを促進・抑制する要因を明らかにした。このモデルは,自治体ごとに,国籍構成などの外国人口の属性,及び,自治体の人口規模や産業構造などを含む,都市生態理論に基づいたものである。その結果,日本における外国人の住み分けは,自治体ごとに大きくことなることが示され,各自治体の外国人の住み分けの実態を反映したものであることが明らかになった。さらに,重回帰分析による推定結果からは,日本における外国人の住み分けが,欧米における事例とは異なり,大都市インナーエリアではなく,地方の工業地帯において見られることが示された。また,国籍別ではブラジル国籍人口の増加が住み分けの促進に正の影響を,フィリピン国籍女性の増加が,住み分けを抑制する効果を持つことが明らかになった。ブラジル人の多くは日系人であることから「デカセギ」労働者として社宅などにまとまって居住する,「顔の見えない定住化」現象が現れたものといえるだろう。また,フィリピン国籍女性の増加が住み分けを抑制する効果を持つことは,フィリピン人女性の多くが日本人と結婚して在留しており,住み分けにつながりにくい構造を持っていることに起因すると思われる。以上のことから,在日外国人の住み分けについて,これまで定性的研究によって明らかにされて来たことが,定量的な観点から支持されたといえるだろう。また,このことは,日本が,移民受入れ国家として,外国人の社会統合について対処しなくてはならない歴史的段階に達していることを示唆するだろう。

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