著者
宮本 要太郎
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.447-471, 2014-09-30

フランクルのいうように、人間は本質的に「苦悩する人間」である。とりわけ、愛する人を失う喪失体験は、その人を忘れたくないという願望や忘れてはならないという決意に促され、死者との新たな関係性の構築に向かい、生者自身を新たな生へといざなう(悲しみの力)。同時に、そのような願望や決意は、それらに共感的に寄り添う「記憶の共同体」が存在することで救われる(共苦の力ないし苦縁の力)。その意味で、故人を想起することと、その想起に協同的に参与すること(痛みを共有すること)は、いずれも宗教的な意味を帯びている。幸福は脆く儚い。その厳然たる事実自体が悲哀の念を呼び起こす。しかし、同時に、だからこそ今この瞬間のつかの間の幸福が有難くなってくる。人は悲しむ(悲しめる)存在であるからこそ、幸福を真に噛み締めることができるのである。悲(哀)しみは人を結ぶ力がある。悲(哀)しみを媒介として関係性のなかに生きるとき、それは(うちに悲しみを含んだまま)幸せの感覚をもたらす。

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