- 著者
-
市村 太郎
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, no.2, pp.1-16, 2014-04-01
「ほんに」は、中世〜近世初頭では、名詞・形容動詞の延長上で述語動詞に前接して連用修飾していたが、近世前期には文意や事柄に対する実感的・発見的強調を表す副詞に転じた用例がみられ、談話標識のような機能を持つに至り、名詞・形容動詞的用法と共に多様な形式で用いられた。その後も副詞として近世を通じて幅広く用いられたが、近世後期には次第に抽象化・固定化が進み、近代初期に衰退傾向に転じた。その一方で、特に江戸語・東京語においては近世末から近代初期にかけて「ほんに」に代わり「ほんとうに」の使用・用法が拡大し、「ほんに」は衰退した。その背景には、〔述語用法の喪失→連用修飾と連体修飾との併存→それぞれの固定化・抽象化→一部を残して衰退傾向〕という「ほん」全体での変遷過程があり、単に副詞としてのみの衰退ではなかった。「ほんとう」類はそれに連動し、名詞・形容動詞用法から徐々に、「ほんに」が辿ったのと同じような過程で拡大したと考えられる。