- 著者
-
打浪(古賀) 文子
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, no.1, pp.85-97, 2014-09-30
情報化社会が発展するにつれ,障害者の情報アクセスをいかに保障するかが課題となりつつある.特に知的障害者は直接アクセスできる情報源がほとんどないため,情報格差の最下層に取り残されている.本稿では,これまで国内にごくわずかしか研究蓄積のない知的障害者への「わかりやすい」情報提供について,学術的課題の検討を行った.また,国内での「わかりやすい」情報提供の先駆的な実践である,知的障害者向けの定期刊行物「みんながわかる新聞『ステージ』」の編集担当職員への聞き取りによる実態調査,及び「ステージ」編集会議の録音調査から,知的障害者への「わかりやすい」情報提供の普及のための実践的課題の考察を行った.学術的課題の整理から,先行研究における当事者的視点の不足が指摘された.また「ステージ」編集担当職員への聞き取り調査から,「ステージ」の詳細及び意義と課題が明らかとなった.さらに「ステージ」編集会議への録音調査から,「わかりやすさ」「わかりにくさ」に関する当事者視点からの示唆が得られた.今後,当事者視点からの検証に基づいた研究蓄積を一層増やしていく必要がある.また,「ステージ」のような試みが既存の領域や障害枠を超えて共有されるような展開を検討すること,他分野との連携を模索することが課題である.