- 著者
-
香坂 雅子
- 出版者
- 国立保健医療科学院
- 雑誌
- 保健医療科学 (ISSN:13476459)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, pp.33-40, 2015-02
女性の健康(Women's Health)では,疾患の性差の把握はもちろんのこと,女性特有のQOL,心理社会的背景やライフステージを考慮した予防やヘルスプロモーション,治療が求められる.ここでは,ライフステージをふまえながら,女性の睡眠ならびに特有な睡眠障害について概説する.睡眠時間についての大規模な調査が行われ,女性の多くの年代で男性よりも睡眠時間が短く,年々その傾向は際立っている.女性の睡眠は,性ホルモンの影響を受け,月経周期とともに変動し,睡眠の質が不良となる,徐波成分や睡眠紡錘波の周波数が変化する,などの報告がある.また,黄体後期では,体温リズムの振幅が低下する,などの特徴が認められる.睡眠構築についても性差があり,加齢とともに徐波睡眠は減少するものの男性に較べて女性では比較的保たれ,レム睡眠の分断が少ない. 睡眠障害についてみると,アジア,欧米圏で行われた疫学調査のメタ解析では,女性における慢性不眠の報告が多い.日本の全国調査でもDoiらは男性173. %,女性の215%. と,同様の傾向を示した.慢性不眠の背景となるような身体的,心理社会的要因としては,更年期に特徴的な血管運動神経症状を呈する更年期障害,介護を担う家族の一員としての心理社会的要因による不眠,レストレスレッグズ症候群などがある.睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は日中の眠気を訴える疾患であるが,発病率に性差があり,女性では不眠を訴えることが多い.OSASが重症になると女性では男性に較べて糖尿病や,虚血性心疾患の合併率が増すとの報告もある.女性においては,睡眠時間と高血圧の発症との間に相関があり,5年後の追跡調査では5時間以下の睡眠をとる女性は,7時間睡眠に較べて19. 4倍の発症率を示した.睡眠の剥奪は女性にとって有害な心血管疾患をもたらすと警告している. 女性が,それぞれのライフステージにおいて健康を保つための知識を確保できるようにするとともに,教育や啓発活動を受けることのできる行政のシステムづくりが必要と考える.