- 著者
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昆 隆
- 出版者
- 日本文学協会
- 雑誌
- 日本文学 (ISSN:03869903)
- 巻号頁・発行日
- vol.37, no.10, pp.1-11, 1988
「こゝろ」の「下 先生と遺書」の、特に叙述の様態について、考察した。Kの自決、殊にも「私」がお嬢さんと結婚して以降(「下・五十一」)の叙述が、ひたすら独白(モノローグ)化して行くのに対して、それ以前、「下・五十」までの叙述は、趣を異にしている。そこには「他者」の「声」がある。だが、若いころの「私」は、それをよく聴き取れたわけではなかった。ではなぜ、現在の「私」は、その叙述の裡に、能く「他者」の「声」を響かせることを得たのか。そこに、追想の問題が生じる。わたしはそれを、<追想-叙述>の機構の不可思議と、名づけてみた。生来の主我主義者(エゴイスト)とも評されるべき「私」が、自身に課せられた制約を乗り超えること、それが、「他者」の「声」に出会うことなのだが、それはいかにして可能だったか。何故というより-である。それを、本文の叙述の様態を考えることを通じて、明らかにしようと、試みた。