著者
高田 衛
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.37, no.8, pp.1-8, 1988-08-10

十八世紀、「江戸戯作」と称される文芸(小説)が成立していった過程で、科学者平賀源内の『根南志具佐』ほど、この文学ジャンルの性格と形成を決定づけた作品はなかった。だが、滑稽と笑いを喚起し、大きな虚構によって都市江戸の生態を活写し、江戸の文学の流れを変えたこの作品について、現在いまだにすぐれた作品論は存在していない。本論文では、『根南志具佐』の作品論へ向けて、その前段階として、大田南畝の『根南志具佐』批評を引用し、分析しつつ、この作品が<江戸>のスキャンダラスな悪場所(バッドシティホリゾン)つまり芝居町=男色者たちの世界の、実際の生態と深くかかおり、そのスキャンダラスな世界(ホリゾン)を逆手にとって、ちょうど遠目鏡で地獄をのぞくように、遠近法を充分に駆使して、コトバで「江戸」をカリカチュアにし、また滑稽なミニチュアにして、読者の前に提供した初めての作品であったことを、豊富なエピソード(悪場所の)を並記して、証明した。そして、「戯作」という文学ジャンルが、じつは文学ジャンルである前に、文学の新しい方法であり、地上的人間世間(シャバ)の全体性を、明快に相対的に描き出す「志」(こころざし)(自立し、他からの妨害を排除し、自由な精神の確立を目的とする作者のつよい意志)に根ざす、笑いを武器とした創造的な文学であることを証明した。従来の学問における固定的な「戯作」観念(余技的な遊び)は、改められなければならない。

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