- 著者
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鈴木 長明
- 出版者
- 日本歯科医史学会
- 雑誌
- 日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
- 巻号頁・発行日
- vol.31, no.1, pp.11-20, 2015-03-31
宮城県,山形県,福島県の民話,昔話,伝説を資料として,病気治療例を収集し分析した.収集できた症例は77例であった.病人あるいは悩める人のうち一般人は38例であった.症状あるいは悩みは75例で,らい病による口と唇の症状が含まれた.効果がなかった治療歴は31例で,医者の治療が14例でもっとも多かった.治療担当者あるいは相談者では,僧侶や巫女をはじめとした宗教等関連者が24例,一般人が23例,医療関係者が5例であった.診断法あるいは本人の願い成就法は26例で祈祷が19例であった.病気の原因あるいは病名は26例で崇りと呪いが13例を占めた.治療法では医学的療法が37例,宗教的療法が24例であった.治療効果は成功例が48例,死亡例が1例であった.以上の結果より,現代のように進歩した医療技術が存在せず,医療担当者の数も少なく,健康保険制度も確立していなかった時代においては,病気の際,医者の代わりに僧侶や巫女をはじめとした宗教等関連者を頼りにしていたことが明らかになった.