- 著者
-
酒井 英行
- 出版者
- 日本文学協会
- 雑誌
- 日本文学 (ISSN:03869903)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, no.6, pp.44-54, 1985
明治三十九年の漱石の課題は、教師と作家の間の宙吊りを清算して、作家として立つことであった。『坊つちゃん』を書くことによつて松山時代を追体験した後、『草枕』『二百十日』において熊本時代を追体験してゆくのである。明治三十九年の不徹底な生活に過去の卑怯な地方生活をオーバーラップさせて思い浮べていたのであり、現在と過去の卑怯さが相乗して、文学によって現実と闘う決意を固めさせていったのである。