著者
米田 利昭
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.33, no.10, pp.1-15, 1984-10-10

「こころ」は「よくできている作品」(吉田精一)といわれている。しかし素朴に読むと矛盾に充ちた作品でヽそのかいたるものが、妻(以前のお嬢さん)が自分をめぐる男二人の争いを知らず、残った男(夫)の心がどうして変って来たかも知らない、それについて想像をめぐらそうともしない、「純白」のまま放置されている不自然さである。作者は充分承知している筈の男と女のリアリズムを無視している。同様にして「私」も「私」の父母も現実性を失っており、こうしたリアリズムを犠牲にすることで、漱石はいったい何を描きたかったのか、何を主張したかったのか、-それを読もうとした。

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