著者
大久保 千代次
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.532-539, 2015-12

日本人を含め世界中の人々が,電波利用の恩恵を受けており,電波の恩恵を受けないで現代生活を営むことは無理である.しかし,恩恵を受けながらも,電磁界の健康影響を懸念する人々がいるのも事実である.電磁界ばく露と生体との相互作用は,周波数が100kHz以上の電波領域では熱作用が主となる.電波ばく露防護の国際的なガイドラインを作成している国際非電離放射線防護委員会は,熱作用を基に低減係数(安全係数)考慮した上でばく露の制限値を設定している.したがって,ガイドライン値以下のばく露環境では国民は十分に防護されていると言える.しかし,国際的ガイドラインの制限値を大幅に下回るばく露レベルでも健康影響をもたらすとの学術論文も発表されている.その科学的信憑性はともあれ,論文内容がメディア等を介して不正確に国民に情報伝達されるため,国民に漠然とした不安を抱かせる要因のひとつとなっている.その上,電波の存在やその強弱を感覚器で感知するのは困難であり,得体の知れない存在でもある.この傾向は世界各国共通であり,日本固有の問題ではない.WHOは電磁界ばく露の健康リスク評価を目的として,1996年に国際電磁界プロジェクトを発足させ現在も継続中である.健康リスク評価対象となる周波数は0-300GHzで,広範囲に亘る.健康リスク評価の結果は,環境保健クライテリアとして2006年に静電磁界,2007年に100kHzまでの超低周波電磁界を対象として順次出版されてきた.本稿では,電磁界と生体の相互作用,WHO国際電磁界プロジェクト概要と現在実施中の100kHz以上300GHzまでの無線周波電磁界(電波)の健康リスク評価と環境保健クライテリア作成の進捗状況を紹介する.

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