- 著者
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坂口 尚史
- 出版者
- 慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会
- 雑誌
- 慶応義塾大学日吉紀要 ドイツ語学・文学 (ISSN:09117202)
- 巻号頁・発行日
- no.32, pp.115-127, 2001
1993年からスタートした新しいカリキュラムに「地域文化論(1)」「地:域文化論(ID」と称する新設科目が,日吉1,2年生のための人文科学系の科目として入った。法学部が設置し,(1)は春学期(前期),(II)は秋学期(後期)に開講され,それぞれの学期末に定期試験を実施して,学期ごとに2単位となる。しかしゼメスター制度は,法学部の政治学科が中心であるので,政治学科の受講生にだけ9月に春学期の成績が知らされる。法学部法律学科や,経済学部,商学部の受講者についても春学期の成績として出ているのであるが,受講者が成績を確認できるのは,翌年の3月である。 制度上の統一がとれないのが残念であるが,オムニバス形式ではなく,一人の担当者が少なくとも一学期を通じて講義するので,イギリス,アメリカ,フランス,中国,ロシア,スペイン,東欧の七地域の文化論講義を,法学部,経済学部,商学部,医学部の受講者が多数聴講している。ただ,東欧については担当者の都合もあり,途中から開講されなくなった。 筆者は1996年度から「地域文化論」(1)(II)を8学期担当した。法学部ドイツ語部会から最初に小名木栄三郎先生が担当され,深田甫先生が担当された年もある。両先生ともすでに退職されている。ドイツ,オーストリア,スイスのドイッ語圏を視野に入れて,(1)はドイッ文化入門を,(II)は(1)の講義の中から少し具体的に,ある時代,あるテーマをとり出して,それぞれ12回ほどの講義を行う。聴講者は必ずしもドイッ語の履修者ばかりでなく,フランス語,スペイン語,ロシア語などドイツ語以外の外国語を履修している学生も多い。2000年度の秋学期については,受講者数は190名に達し,アメリカ,イギリスに次ぐ大きなクラスとなっている。しかしこれは必ずしも,ドイッ文化に対する受講者の関心の高さを意味しない。講義の主旨を反映して1年生が多く,法学部法律学科42名,政治学科40名,経済学部15名,商学部15名,医学部1名であり,2年生も各部あわせて77名来ている。 講義の主旨というのは,この時間が例えばドイッに関していえば,「30年戦争」がいっの時代にあったのか,「ローレライ」とはいかなる歌か等にっいて全く知らない学生が多くいるという,最近の大学生の現状に端を発して設置されたものである。外国語を学ぶ人が,その国の言葉の背景をなす文化について,外国語の授業では説明されない部分を講義科目で学べるように,また他の外国語をとっている人もドイッ・オーストリアについての知識を得てロマンス語圏の文化と比較できるようにとの目的をもって設置された。さらにそのテーマが日吉2年生の「人文科学特論」につながり,三田へ行って3,4年生のたあに設けられている 「人文科学研究会」に受けっがれるという意図もある。理想どおりにはなかなかいかないとしても,社会科学を中心に学ぶ学生にも,人文科学をできるだけひきっづき研究してもらうための第一段階という役割を担っている。このため法学部では,旧一一般教養科目の中の「人文」,「社会」,「自然科学」という枠づけは保持されているのである。人文科学が3,4年生にまでのばされたかわりに,専門科目が日吉の1,2年生に,以前と比べてかなり降りてきているので,履修する方もうまくバランスをとっていかなければならない。これはかなりの難問である。