著者
西川 俊作
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.23-39, 2005-12

『福澤諭吉全集』に収録されてから実に50年ものあいだ見過ごされてきた「時事新報計算簿」の資料価値に着目し,それを福澤後半生の所得推計に利用したのは,故玉置紀夫君であった。この小論は同君の試みを批判的に継承し,同計算簿をはじめとする諸会計帳簿(いずれも福澤自筆)を参照して得られたところの事実や推定結果を取りまとめたものである。(1)福澤は編輯記者の人選や給与の査定を一手に掌握し,彼らへの毎月の給与(年2回の賞与を含む) 支払いも余人を煩わせず自らの手で行っていた。新聞用紙ほかの物件費,また印刷工・配達員などの人件費はもっぱら会計主任(坂田実)が管掌していたらしい。(2)新報社創業時に盟友(中村道太)からの出資があったものの,明治18年頃その出資金は福澤からの中村への貸付金と相殺されて,同社の資本金はすべて福澤の醵出となり,彼は名実ともに社主となった。端的に言うと新報社は福澤の個人企業となったのである。(3)新報社の採算は不明であるが,編集部(主筆福澤を含む)の給与総額を超え,目に見えるほどの収益を上げるようになったのは,明治20年代半ば以降のことであったようだ。(4)主筆福澤の年俸は明治20年代を通じて7000円余であった。20年代後半に収益が次第に増加したので,福澤の総収入(主筆年俸+資本収益)は15000円前後に達した。(5)この間,福澤は企業流動性の管理を慎重に行っていたと評せる。他方,紙面の拡大・充実とか365日発行などの経営努力によって業績の改善をがもたらされたのではないか,というのが当面の仮説である。故玉置紀夫教授追悼号

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