著者
滝藤 早苗
出版者
慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会
雑誌
慶応義塾大学日吉紀要 ドイツ語学・文学 (ISSN:09117202)
巻号頁・発行日
no.38, pp.55-76, 2004

E. T. A. ホフマン(1776−1822)は,『クライスレリアーナ』のなかに収められている音楽小説『クライスラーの音楽と詩の同好会(Kreislers musikalisch-poetischer Klub)』で,彼独自の調性格論を展開している。作家としてよりも音楽家として大成することを切に願っていたホフマンにとって,当時の西洋音楽に必要不可欠な表現手段である調について述べることは,何か特別の意味があったに相違ない。そして,いかにホフマンが調の性格付けを行ったのか検証することは,彼の文学や音楽作品の解釈,または彼の音楽思想の考察,ひいては当時のドイツにおける音楽美学を研究する上で非常に重要な作業となるはずなのであるが,残念なことにこの問題は今日まであまり注目されてこなかった。従って,本稿ではホフマンの調性格論の考察を目的とし,その特徴をより鮮明にするために,C. F. D.シューバルト(1739−1791)の見解との比較を試みる。シューバルトもホフマンと同様に,作家であると同時に音楽家でもあった人物であり,彼の音楽思想は当時の多くの人々に影響を与えたと言われている。特にシューバルトの『音楽美学の理念(Ideen zu einer Ästhetik der Tonkunst)』は,調の性格付けを試みた書物の中でも古典派の時代を代表するものとして,広く知られている。L. v. ベートーヴェンやR.シューマンも,幾つかの点で異論を持ちつつも,シューバルトの音楽思想には興味を示した。ベートーヴェンの秘書を務めたA. F. シントラーによると,ベートーヴェンの蔵書のなかには『音楽美学の理念』が含まれていて,とりわけシューバルトの調性格論に深く傾倒していたという。 ホフマンとシューバルト。多少世代に開きはあるものの,ともにドイツで文学や音楽,その他多岐にわたる分野において活躍した偉才であるが,ホフマンは音楽思想のみならず音楽批評家としての活動においても,シューバルトから大いに影響を受けていると考えられる。しかし,本稿では両者の調に関する見解にのみ焦点を絞って,考察を進めていきたいと考えている。

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