著者
浅見 淳之
出版者
京都大学大学院農学研究科生物資源経済学専攻
雑誌
京都大学生物資源経済研究 (ISSN:13418947)
巻号頁・発行日
no.12, pp.17-29, 2006

遊牧民国家であったトルコでは、牧草地は畜産を支える貴重な資源である。牧草地は国有地であり、コモンズとして利用されている。ところが1950年代から過放牧と、農業地または工業地、宅地などへの過剰な転用によって、破壊されその面積は急速に縮小してきてしまった。最も深刻に影響を及ぼしたのが、トラクタリゼーションによって開墾が容易になったことで農民が不法に進めてしまった国有牧草地の敵対的占有行動である。この不法行為は、土地登記法の不完備という法制度上の問題によって促進されてしまった。牧草地の破壊に対してトルコ政府は、法制度上の不完備性を改めるために1998年に「草地法」を立法させた。新法のもとに国有牧草地と私有農地の境界が再設定され、敵対的占有となされた農地は国有牧草地に強制収用されることになった。そこで、敵対的占有農民(被告)と政府(原告)が裁判を起こした場合、双方が受け入れられるパレート最適が効率的な司法判断とされる点から、草地法の効率性を検討した。その結果、損害賠償よりも強制収用のほうが効率的であることが示され、同法の効率性を支持することになった。パレート最適な上では、社会的な効用が最大となる点が司法判断とされるので、ナッシュ交渉解を判決とした。この解のパラメータ変動効果を見ることで、草地法の経済学的な属性を検討した。すなわち、牧草地の価値が世論において再評価されている現状では強制収用が進むが、気象変動などによって農家の所得が下がる場合には農家が敵対的占有地にしがみつき収用が進まなくなること、罰則金の加重化は農民の反抗を生みかえって収用が進まなくなること、裁判費用の加重は農民にとって負担になるので裁判をしないで強制収用に応じる可能性が高まることが明らかになった。

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