著者
長野 俊一
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
言語と文化の諸相
巻号頁・発行日
pp.321-334, 1999-03-10

結婚で大団円を告げ、その先は、語るべきことがもはや何も残されていないかのような恋物語あるいは恋愛小説を拒否することからトルストイの小説『家庭の幸福』《Ceмeйнoe cчacтиe》は始まる。結婚は物語の最終章ではなく序章にすぎない。トゥルゲーネフの中編『アーシャ』を「ゴミ屑」1) と日記に記した作家に言わせれば、過去の恋愛小説は「まったくの戯言」2) だ。ジャンルとしてのロマン主義的恋愛小説そのものが死を宣告され、その終着点から真実の物語が新たに書き下ろされる。

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