- 著者
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水野 正好
- 出版者
- 奈良大学文学部文化財学科
- 雑誌
- 文化財学報 (ISSN:09191518)
- 巻号頁・発行日
- no.14, pp.41-51, 1996-03
出産のあと、湯殿始めの儀が執り行なわれる。産湯の儀である。この産湯の水は、単なる産児を洗う湯という以上に強い宗教性が与えられている。例えば、後白河院の誕生を記す『九民記』には「次主税属佐伯貞仲率仕丁、令汲吉方水」とあるように、産湯水には、誕生した産児の吉方を勘案して陰陽師が方角(吉方)を定め、その方角にある河川などから「吉方水」を汲みとり、宮室・家宅に持ち蹄るのである。