- 著者
-
寺沢 セシリア 恵子
- 出版者
- 文教大学
- 雑誌
- 文教大学国際学部紀要 (ISSN:09173072)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.2, pp.51-65, 2011-01
アルゼンチンにおいて日系と呼ばれる日本人移民の子孫は、現地で生まれ育ち、社会に溶け込んでいる例がほとんどである。興味深いことに、彼らはネイティブとしてスペイン語を話すと共に日系社会、つまり少数言語コミュニティの中で独特の言語の使い方をしている。具体的には、自分たちの親の母国語である日本語を上手くスペイン語に取り込み、表現の幅を広げている。これは、日本語が全く話せない日系人にも共通してみられる現象である。 1980 年代後半から、アルゼンチンから日本への「出稼ぎ」が著しくなった。比較的学歴が高い日系人であっても、日本での仕事は建築現場や工場などを中心としたブルーカラーの仕事しか出来ないのが現状であった。これは、彼らの日本語能力が不十分であったからというのが主な原因であると推測する。もし十分な日本語教育を受けていれば、もっと日本での職業の選択の幅が広がったのではないかと考えられる。このように日系社会における日本語教育の必要性がある一方で、アルゼンチンで生まれ育つ日系人にどのように日本語を継承していくか、その教育方法が今後の重要な課題となるであろう。 本論文では、アルゼンチンへの日本人移民の歴史を振り返り、日系社会の中でどのような形で日本語が継承されているかについて論ずる。具体的には、アンケートの結果を通し、アルゼンチンの日系社会におけるスペイン語がどのような変容を受け、またどのように日本語と融合しているのかを言語学的視点から分析・考察する。