- 著者
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山根 望
- 出版者
- 山口大学大学院東アジア研究科
- 雑誌
- 東アジア研究 (ISSN:13479415)
- 巻号頁・発行日
- no.9, pp.21-40, 2011-03
妊娠が判明してから女性は、激しい身体的・心理的・社会的変化を経験する。特に、初産婦は心理的葛藤を抱える場合が多い。夢は夢主に関する豊かな情報を含み持っているので、妊娠中に女性が心理的に母親になっていくプロセスを明らかにするために初産婦の夢を調査することは非常に有効である。しかしながら、初産婦の夢に関する縦断的研究はほとんど行われていない。本研究では、5人の初産婦から合計165個の夢を収集し、母性に関連する夢の機能という観点から分析した。本研究では、操作的に定義すれば、母性とは次の4つの要素から成る。すなわち、(1)生理、妊娠、出産、授乳などの母性的身体機能、(2)自分よりか弱い者に対する「かわいい」「いとおしい」といった母性的感情、(3)子どもの要求を満たし、適切な養育を行う母性的行動、(4)「この子は私の子どもである」「私はよき母親になりたい」といった母性的意識である。分析をする際には、できる限り夢についての夢主の連想や感想に基づいて夢解釈を行った。その結果、5人に限って言えば、母性に関する機能が少なくとも5つあることが明らかになった。すなわち、(1)受胎を教える機能、(2)母性的行動を練習させる機能、(3)出産に対する準備をさせる機能、(4)育児に関する助言をする機能、(5)母性的意識の発達を促す機能である。妊娠期から夢は母性的行動に関わる具体的場面を設け、夢主に母性的行動を練習させていた。母性的行動(授乳)を練習するなかで夢主の育児不安が減り、母性的感情や母性的意識が発達した事例が2つあった。また、子どもの性別や障害に関する不安が現れた夢を見ることによって、夢主の母性的感情や母性的意識が発達した事例が1つあった。母性に関連した夢を見る頻度は個人差が非常に大きかったが、これは初産婦の性格やそれまでの乳幼児との関わりなど様々な要因が影響していた。