著者
JURKOVIC Tomas
出版者
お茶の水女子大学比較日本学教育研究センター
雑誌
お茶の水女子大学比較日本学教育研究センター研究年報
巻号頁・発行日
no.8, pp.113-117, 2012-03

村上春樹の小説の中には数多くのブランド品が登場するが、2002年出版の『海辺のカフカ』までは、その言及を、現在の日本の状況に対する作家の批判として解釈することが可能であった。『海辺のカフカ』以前の作品では、贅沢なブランド品を舞台装置として構成された世界によって、その中に存在する消極的な主人公が抑圧される傾向が明らかであった。一方、その消極的な主人公に対して、『海辺のカフカ』における田村カフカという主人公は、積極的に努力を重ねながら、自分の運命を切り開こうとしている傾向がある。この主人公の変化に従って、主人公をとりまく贅沢世界の代表者も変化を表す。以前の舞台装置のようなものとは異なり、ジョニー・ウォーカーとカーネル・サンダースというアイコンの形をとり、積極的な行動を取り始める。単なる「舞台装置」から、物事を動かせる登場人物になるのである。ウォーカーも、サンダースも、おとぎ話あるいは神話に登場する魔法使いのような役割で、カフカを成長させるのを手助けする。カフカの取った積極的な態度に反応しながら、彼らは逆に両親からの圧倒的な精神的影響を乗り越えさせるような刺激をカフカに与える。このように、『海辺のカフカ』は村上春樹の作家としての「転向」の典型的な例として捉えることができる

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CiNii 論文 - JURKOVIC Tomas- 『海辺のカフカ』におけるジョニー・ウォーカーとカーネル・サンダースの意味 http://t.co/cbutL7Eo #CiNii

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