- 著者
-
杉山 有紀子
- 出版者
- 東京大学大学院ドイツ語ドイツ文学研究会
- 雑誌
- 詩・言語 (ISSN:09120041)
- 巻号頁・発行日
- vol.76, pp.13-30, 2012-03
シュテファン・ツヴァイクの遺作となった回想録『昨日の世界』は1942年に出版された。ハンナ・アーレントは1943年に英語版に対する書評を発表し、後に『昨日の世界のユダヤ人』と題してエッセイ集『隠された伝統』(1976)に収録した。アーレントはユダヤ人としての「恥辱」の運命から個人的に逃れようとしたツヴァイクの生き方を強く批判しているが、本論では彼女の批判を通して『昨日の世界』に新たな光を当てることを試みる。「ユダヤ人」Judenの複数的運命を強調し、そこからの離脱を試みたツヴァイクを非難するアーレントに対し、ツヴァイクは「ヨーロッパ人」ein Europäerとしての単数性と、その政治的敗北の状態に彼の信念である「自由」の可能性を見出そうとしていたことが示される。