著者
杉山 有紀子
出版者
東京大学大学院ドイツ語ドイツ文学研究会
雑誌
詩・言語 (ISSN:09120041)
巻号頁・発行日
vol.77, pp.15-40, 2013-01

本論はシュテファン・ツヴァイクの伝記『ロッテルダムのエラスムスの勝利と悲劇』を、出版当時の1930年代の政治情勢とそれに対する著者及び周囲の人物の態度に着目して扱う。この作品ではエラスムスと対立するルター像がナチズムに重ね合わせられているが、ナチス側だけでなく反ナチスの知識人らも、断固とした政治的立場を示そうとしない著者の立場を反映するものとして『エラスムス』を批判した。しかしツヴァイクの「中立」へのこだわりは単なる不決断ではなく、反ファシズム運動がコミュニズムと結びつくことによって精神的自由がイデオロギー化され、その本質を失っていくことに対する抵抗であった。ナチズムだけでなくあらゆる党派性の内に暴力的排除の論理を見出すゆえに、彼は政治的反ファシズムを含めいかなる党派にも与せず、それが必然的にもたらす「孤独」をも引き受ける覚悟を『エラスムス』において示したのである。
著者
杉山 有紀子
出版者
東京大学大学院ドイツ語ドイツ文学研究会
雑誌
詩・言語 (ISSN:09120041)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.13-30, 2012-03

シュテファン・ツヴァイクの遺作となった回想録『昨日の世界』は1942年に出版された。ハンナ・アーレントは1943年に英語版に対する書評を発表し、後に『昨日の世界のユダヤ人』と題してエッセイ集『隠された伝統』(1976)に収録した。アーレントはユダヤ人としての「恥辱」の運命から個人的に逃れようとしたツヴァイクの生き方を強く批判しているが、本論では彼女の批判を通して『昨日の世界』に新たな光を当てることを試みる。「ユダヤ人」Judenの複数的運命を強調し、そこからの離脱を試みたツヴァイクを非難するアーレントに対し、ツヴァイクは「ヨーロッパ人」ein Europäerとしての単数性と、その政治的敗北の状態に彼の信念である「自由」の可能性を見出そうとしていたことが示される。
著者
杉山 有紀子
出版者
慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会
雑誌
慶應義塾大学日吉紀要. ドイツ語学・文学 = Hiyoshi Studien zur Germanistik (ISSN:09117202)
巻号頁・発行日
no.59, pp.57-79, 2019

序1. 成立の経緯と物語化における「平和」2. 1930年代及び戦後のオーストリアと「平和の歌」3. ザルツブルク待降節音楽劇 (Salzburger Adventsingen)4. ザルツブルクと世界の架橋鈴村直樹教授追悼記念号 = Sonderheft zum Andenken an Prof. Naoki Suzumura
著者
杉山 有紀子
出版者
東京大学大学院ドイツ語ドイツ文学研究会
雑誌
詩・言語 (ISSN:09120041)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.13-30, 2012-03

シュテファン・ツヴァイクの遺作となった回想録『昨日の世界』は1942年に出版された。ハンナ・アーレントは1943年に英語版に対する書評を発表し、後に『昨日の世界のユダヤ人』と題してエッセイ集『隠された伝統』(1976)に収録した。アーレントはユダヤ人としての「恥辱」の運命から個人的に逃れようとしたツヴァイクの生き方を強く批判しているが、本論では彼女の批判を通して『昨日の世界』に新たな光を当てることを試みる。「ユダヤ人」Judenの複数的運命を強調し、そこからの離脱を試みたツヴァイクを非難するアーレントに対し、ツヴァイクは「ヨーロッパ人」ein Europäerとしての単数性と、その政治的敗北の状態に彼の信念である「自由」の可能性を見出そうとしていたことが示される。
著者
杉山 有紀子
出版者
東京大学大学院ドイツ語ドイツ文学研究会
雑誌
詩・言語 (ISSN:09120041)
巻号頁・発行日
vol.75, pp.65-86, 2011-11

ホフマンスタールの死後にR. シュトラウスはシュテファン・ツヴァイクのリブレットによるオペラ『無口な女』を完成させたが、ナチス政権によりその後の共作は妨げられることになる。本論ではヴァーグナー以後のオペラの形を模索したシュトラウスと、ホフマンスタールに代表される前時代の文学に根差しつつ戦間期に生き残る文学を試みたツヴァイクによって生み出されたオペラの意義を考察し、テクストの分析により1930年代前半のナチス政権成立前夜にこの「非政治的」喜劇に込められた対時代的意味を明らかにする。