著者
挽地 康彦
出版者
和光大学現代人間学部
雑誌
和光大学現代人間学部紀要 (ISSN:18827292)
巻号頁・発行日
no.2, pp.133-144, 2009-03

本稿は、高齢化を所与の傾向とみなし参加型・自立支援型の福祉社会をめざす現代の日本社会を批判的に考察するものである。近年の日本社会では、就労可能な高齢者はたとえリタイア期にあっても受益者に甘んじることははばかられ、積極的に社会を支えることが称揚されている。一方、社会関係が稀薄化し貧困化した高齢者は、受給条件の厳しくなった社会サービスから益々切り離されるばかりか、社会の「お荷物」として排除されつつある。このような認識のもとに、本稿では、高齢化する刑務所の内実に着目し、昨今の刑務所が国家に代わって福祉の代替的な機能を果たす側面を検証する。ケインズ主義を前提とする福祉国家が、「繁栄の時代」を象徴する歴史の一部になって久しい。ネオリベラルな福祉政策がセーフティネットから撤退する現代では、皮肉にも、犯罪者の社会復帰を担う刑務所が、社会から排除された高齢受刑者の雇用と生命の安全を忠実に引き受けているのである。

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