- 著者
-
藤木 哲夫
道津 喜衛
- 出版者
- 長崎大学水産学部
- 雑誌
- 長崎大学水産学部研究報告 (ISSN:05471427)
- 巻号頁・発行日
- no.14, 1963-03
西日本水域における成熟ボラ群の生態を明らかにするため,沿岸各地で行われている各種のボラ漁業の調査を進めているが,ここではその第一歩として九州西岸の長崎県野母崎町樺島および同県五島列島富江町で古くから行われている秋季の成熟ボラ群を狸る敷網漁業について調査し,その結果から凹地沿岸に来游する成熟ボラ群の生態について比較検討した.今回用いたボラ漁業の資料は樺島のものは1951~1961年の11年間,富江のものは1954~1961年の8年間のものである.秋季に成熟ボラが来暫し,漁獲されるのは両地ともに10月中旬から11月下旬までの約1ケ月間であり,漁期の年平均は樺島で25.8日,富江で14.5日であり,前者の方が長い.ボラ敷網漁業では漁期になると山上高所に魚見役十余人が立って魚群の行動を監視し,ボラ群の一つ一つを群群に漁獲し,漁獲物の雌魚は「からすみ」原料となる卵巣をとるため全部開腹処理するので性比,卵巣熟度を知り得るなどという生態調査上め多くの利点を持っているが,漁業者の記録によると,1漁期中の魚群来祝日の平均は樺島で6.4日,富江で3.3日,来游推定尾数は樺島で平均約30,000尾,富江で8,000尾でありまた,漁獲尾数の平均は樺島で6,887尾富江で1,653尾であり,これらの諸点からみると樺島の方がより優れたボラ漁場であることが分る。漁期中における魚群の来游日間隔は両地ともに5日前後の例が多いが,これは成熟ボラが両地の沿岸に滞留する時間を知るための一指標となる。敷網で獲れる成熟ボラは雌が雄より少ないことが知られているが,雌雄比の平均は樺島で20:100,富江で75:1OOであり,両地で著しく違っているがその原因については分っていない.樺島における1961年11月4日の漁獲物についてみると,雌の体長は430~550mm,雄は310~410mmで,雌の方が雄yよりは大きく,この大きさの差によって雌雄がよういに判別できる.雄はすべて腹を圧すと精液を出したが雌魚で完熟卵巣を持った個体はいなかった.雌の成熟卵巣の重量は体重の20%を占めて大きいが,雄の完熟精巣の重量は10%以下であり,しかもこの値は個体差が著しかった.富江の漁獲物の魚体調査は行っていない.樺島,富江ともに北ないしわ東北の軟風(風速3.4~5.2m/sec)が吹き,海面に白波が立つ快晴の日に特にボラ群の来游が多いことが分ったが,これは両地のボラ漁業者の間で古くから言い伝えられていることと一致する.漁期中における潮汐と魚群来游との関係を調べてみたが両地共に目立った関係を見出し得なかった.なお富江におけるボラ群来游時季の水温は17.1~20.6℃であった.