著者
小島 雪子
雑誌
宮城教育大学紀要 = Bulletin of Miyagi University of Education (ISSN:13461621)
巻号頁・発行日
no.48, pp.315-326, 2014-01-27

「虫めづる姫君」が生まれたのは、社会と仏教との相互浸透が加速した時代であり、仏教の言葉、観念の他の領域への流用、何らかのずれを生じざるを得ない引用は、同時代においては広くみられる言説のありようであった。しかも、そうした仏教の言葉への依拠は、何らかの権威をまとい、自らの述べるところを正当化するためになされてもいたのである。姫君の発言のいくつかにも同様のあり方が認められるが、その過剰さ、ちぐはぐさゆえに、通常は見過ごされてしまいがちな同時代の言説のあり方を意識化することを読者に促す可能性をもっていると考えられる。また、この物語は、人々の信仰のあり方を問題化する側面をも潜在化させている。平安貴族の多くは、日常生活の場においては、仏教の根本にふれるような教えを内面化していたとは言い難く、信仰を使い分けていた。姫君の笑われるべきちぐはぐなありようは、実は相対立するかにみえる周囲の者たちのありように通じるものでもある。物語は、明るくにぎやかな笑いの中に、姫君の過剰でちぐはぐなありさまを語りながら、まっとうに見える人々の仏教とのかかわり方がどのようなものであるのかに改めて気づかせる側面をももっている。

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