著者
長谷川 晶子
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.365-381, 2014-03

本論の目的は,フランスの美術批評家アンドレ・ブルトンが,1938 年にメキシコに滞在した折に出会ったメキシコの有名な写真家マヌエル・アルバレス・ブラーボから受けた影響を明らかにすることにある。ブルトンのテクスト「マヌエル・アルバレス・ブラーボ」(1938 年)と「メキシコの思い出」(1939 年)を手掛かりとして,そこで言及されているアルバレス・ブラーボの写真を詳細に分析しながら,ブルトンがメキシコという土地の特異性をどのように捉えようとしたかを解明する。ブルトンは,西洋中心主義の立場で非西洋の文化を解釈する安易なエグゾティスムに対して批判的だった。ブルトンはアルバレス・ブラーボの写真を,ステレオタイプ化されたメキシコではなく,「土地の魂」をつかんでいるものだと評価している。フランス人である自分もまたエグゾティスムの眼差しから逃れ難いことを承知していたブルトンは,メキシコ滞在の経験を記す上で,解釈を一旦括弧に入れて事物の描写に固執する。あたかもアルバレス・ブラーボの写真の中に光と影の対立から生と死の循環の原理を見出したように,個別の事物の具体的描写を通して,メキシコの土地に潜む普遍的性質を垣間見ようとするのだ。見えるものを通して見えないものを表現するアルバレス・ブラーボの寓意的な写真と重なりあうようなこのブルトンの姿勢は,芸術批評が写真をモデルとして執筆されたことを強く示唆している。

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CiNii 論文 -  メキシコのふたつの表象 : ブルトンのメキシコ論とアルバレズ・ブラーボの写真 http://t.co/HZdeQB6ZWr #CiNii

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