- 著者
-
三海 敏昭
- 出版者
- 立正大学経済学会
- 雑誌
- 経済学季報 (ISSN:02883457)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.1, pp.73-147, 2004-09-30
わが国では、バブル崩壊後不況脱出のために度重なる財政出勤が行われた。金融政策も金利はほとんどゼロにはりつき、量的緩和は限界まで行きついてしまった。しかし、景気は一進一退しながら、長期不況から脱しきれないでいる。ここで、二つの疑問が出てくる。一つは、10年を超える長期間日本経済の停滞が続いたのはなぜか、いま一つはこれほど大規模なバブルの崩壊があったにもかかわらず、日本がなぜ大恐慌に陥らずに澄んでいるのかということである。数多くの分析・提言の中から、B/S(バランスシート)不況説と構造改革不況説、この二つの仮設を採り上げる。日本の景気はようやく上向いてきたが、これは決して構造改革の成果ではない。リストラをやりぬいた製造業が、輸出の後押しも得て縮む経営から挑む経営へ転換し、地方や中小企業がどん底から立ち上がって、現場から再生を始めているのである。とくに製造業の新商品開発は、デジタル家電はじめ目覚しい。わが国のモノづくりの復活であり、工場建設の国内回帰が進展している。先の参議院選挙後、政権交代が起きず、景気回復が目に見えるようになってくると、構造改革論が自信を取り戻し、財政再建の声も出はじめている。わが国が97年、2001年の間違いを繰り返さぬよう、この小論にいうB/S不況説、構造改革不況説を十分検証してほしい。