- 著者
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張 起權
Kigwon CHANG
- 出版者
- 大手前大学
- 雑誌
- 大手前大学論集 = Otemae Journal (ISSN:1882644X)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, pp.55-70, 2012-03-31
朝鮮王朝後期の朝鮮半島では、増大していく社会的混乱の中で、封建社会の基盤を成していた厳格な身分制度にも次第に変化が生じる。文化・芸術的な分野においても実学思想の動きがあらわれるが、特に文学においては、既存の理想主義的な風流文学の流れに反し、実生活を表現し、また批判する風刺文学が出現する。当代の風刺文学の中でも、仮面劇「タルチュム」にみられる風刺は最も痛烈で、批判精神に満ち溢れている。タルチュムは民衆によって生まれた芸術であり、その中には当時の民衆の主な関心事がそのまま描かれている。とりわけ階層間の対立問題と藤構造が浮き彫りにされ、支配層への批判がタルチュムという喜劇を通して表出されている。タルチュムの中には、「狂言」の太郎冠者のような、喜劇中の下男像の典型である「マルトゥギ」が登場する。お調子者で反骨的なマルトゥギによって、主である「両班(ヤンバン)」は弱点を突かれては嘲弄され、風刺の槍玉にあげられる。諧謔に富んだ風刺により、両班の掲げる地位や学識、道徳の矛盾に対して疑問を投げかけ、愉快な笑いを飛ばす。朝鮮王朝の厳格な封建社会において、社会風刺に富んでいるタルチュムの内容は、抑圧されていた庶民の鬱憤を発散し民衆意識を高揚させることに、非常に重要な役割を果たしていたのである。